子どものスポーツと育成システムによる影響について

子どものスポーツと育成システムによる影響について

桑田 大輔(生駒少年ラグビークラブ)

キーワード:競技開始年齢、動機付け、ムーンスパイラル

【目的】
 ラグビートップリーグ日本出生選手、545人 『競技開始年齢が 小学生以下から 200人 中学生から 135人 高校生以降 210人』(日本ラグビーフットボール協会08HP、08ラグビーマガジン10月号別冊より) 競技スポーツ選手の生まれ月(月齢)データを集めて研究する中で、競技開始年齢にも着目してきた。トップアスリートの生まれ月・競技開始年齢をデータ化し、研究する事で、子ども達がスポーツで身体的・精神的に累進的な素質に応じた成長を促進するような育成システムを、構築できるのではないかと考えた。

【方法】
 各スポーツ競技団体のトップアスリートの生まれ月・競技開始年齢を集計する。その時に、外国選手を除く・人口動態統計・日数割合も考慮した実数(デモグラフィック変数)に近い月別出生数表を作成する。多数の月別出生数表・競技開始年齢と、各年代のスポーツ競技人口の推移を調べる。ラグビーに関しては、トップリーグの月別出生数表・競技開始年齢・ポジション別競技開始年齢などの表を作成、調査する。

【結果】
 全体的にトップアスリート(発達促進者)は4~6月生まれの人数が多い(ムーンスパイラル)。従来「月齢能力差が精神的な差異に繋がる」と考えられてきた。子ども達は、月齢能力差を日常的に幼少の時期よりいろいろな場面で感じてきただろう(走っても、飛んでも、投げても、大きな差異がある)。その結果、各競技団体のトップアスリートは、必ず4~6月生まれが多くなるはずだ。
しかし、ラグビートップリーグ選手の月別出生数表は生まれ月(月齢)による影響が、ほとんどなく、どの年代でも(小学生期・中学生期・高校生期)平均している。上記の考えと符合しない。
だが、ラグビートップリーグ選手のポジション別競技開始年齢表には大きな差異がある。
(考察)
友達・子ども同士間の月齢能力差による、勝敗からくる精神的ストレス(有能感・劣等感)は小さく、コーピングで、ほとんど解決する。各競技スポーツの月別出生数表は、子ども達の処理能力を超える大きなストレスが、ムーンスパイラルの発生要因だと示している。
日本の学校教育制度の中で同じ学年の友達・仲間同士は、コミュニティーを形成しており、学年の意識は非常に強く、生涯続く。月齢能力差と学年が、考慮されない枠組みを取り入れた育成システムは、精神的にも未発達なこの時期に、大きなストレスとなる。
子ども達の月齢能力差(早熟・晩熟)による処理能力を超える大きなストレスによる影響(ムーンスパイラル)・非常に強い学年の意識を無視した場合のストレス以外にも、身体的・精神的に発育・発達に合わない育成システムによるストレスなどがある。

08トップリーグ日本出生選手 545人 ポジションのべ 688人

ポジション\競技開始学年

小学以下

中学

高校以上

合計

PR HO LO

35

52

137

224

FL NO8

47

24

62

133

SH SO CTB WTB FB

176

91

64

331

 

258

167

263

688

 

 

 

 

 

ポジション\競技開始学年

小学以下

中学

高校以上

 

全ポジション

37.5%

24.3%

38.2%

 

PR HO LO

15.6%

23.2%

61.2%

 

FL NO8

35.3%

18.1%

46.6%

 

SH SO CTB WTB FB

53.2%

27.5%

19.3%

 

日本ラグビーフットボール協会HP(2008116日現在)

 

競技開始年齢08ラグビーマガジン10月号別冊より

 

 

【結論】
 日本の各スポーツ人口推移は、小学生から中学生になる段階で、ほとんど増加する(中学生の男子入部率約75%)
小学生期に楽しい思いを胸に中学生に進級した後も、友達なども引き連れ、入部するのだろう。
しかし、ラグビーの場合、平成19年度では、スクールの競技人口が、27,367人 中学生の競技人口は、8,750人だ。あきらかに他スポーツとの差異があり、普及・育成・強化の観点からも大きな問題だ。子ども達の精神的・身体的な発達・発育に合わせた育成システムの構築が必要だ。

10mスプリント走とスクワットジャンプパワーの関係

10mスプリント走とスクワットジャンプパワーの関係

菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
高田正義(愛知学院大学)

キーワード:10mスプリント走、スクワットジャンプ、スプリットスクワットジャンプ、ピークパワー

【目的】
トップレベルのラグビー選手における1試合でのスプリント走の総距離は、バックス(BK)が253m、フォワード(FW)が94mで、1試合当たりの平均スプリント走回数はBKが19回、FWが14回との報告がある(Duthie,2003)。
この研究を基に1回当たりのスプリント走の距離を算出するとBKが13.3m、FWが6.7mとなり、ラグビー選手には、10m前後の距離でのスプリント能力が要求されることが示されている。
阿江ら(1995),伊藤ら(1992,1998)は、スプリント走速度の向上には、下肢伸展・屈曲パワーが重要であると報告し、Mcbride et al(2000)は、軽負荷と高負荷とのスクワットジャンプの効果を比較した結果、20mスプリントタイムは軽負荷群が有意に短縮したと報告している。また岩竹ら(2008)は、スプリント能力に及ぼす要因は、片脚交互のジャンプ力、両脚同時のジャンプ力、脚筋力の順に重要になると報告している。
これらの報告は、スプリント速度の向上には脚パワーやトレーニング方法の特異性の重要性を示すものであるが、スプリント速度の向上に有効な爆発的レジスタンストレーニングの至適強度との関係は明らかになってはいない。
本研究は、10mスプリント速度とスクワットジャンプの至適強度との関係について調査することを目的とした。

【方法】
被験者は、大学ラグビーに所属する選手18名(年齢:19.1±0.96歳、身長:170.6±5.02cm、体重:86.1±13.1kg)で、ポジションは、フォワード10名、バックス8名である。
測定種目は、10mスプリント速度(VS10)、スクワット1RM(SQ)、垂直跳び(VJ)の跳躍高、20kgの負荷で行うスクワットジャンプ(SQJ)及びスプリットスクワットジャンプ(SSQJ)のパワーである。
VS10の測定方法は、スタートライン、10mラインの垂直線上に光電管(BROWER Timing Systems)を設定し所要時間を測定し速度を算出した。SQおよびVJは標準的な方法で最大値を測定した。SQJは、膝関節135°屈曲位の姿勢で、SSQJは両脚を前後に開脚し前後脚の膝関節が130±10°屈曲位の姿勢で静止した状態からジャンプ動作を行い、myotest(スイスmyotest SA社製)を用いてピークパワーを測定した。VS10と各測定項目との相関を算出し、有意水準は5%未満とした。

【結果と考察】
各測定項目の平均値および標準偏差は、VS10:5.32±0.26m/s、SQ:154.7±26.5kg、VJ:61.9±7.48cm、SQJ:44.2±4.65Watt/kg、SSQJ:35.1±4.74Watt/kgであった。VS10 とSSQJ、VJ、SQJおよびSQとの間で有意な相関を認めた(それぞれP<0.01 P<0.05 )。
これらの結果は、脚の発揮パワーとスプリントパフォーマンスとの間に有意な相関を示した先行研究(生田ら,1981、Mero et al,1981、Rusko et al,1993)を支持する結果となった。
また、スプリント動作は局面によって筋活動様式や主に活動する筋群が異なり、VS10においては、90%がコンセントリック筋活動で、主に大殿筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋が貢献していると報告されている(Delecluse et,al,1995,1997,Youg,1995)。
この研究から、SSQJやSQJ、VJは筋活動様式、筋群、動作様式がVS10と類似しているが、SSQJにおいては脚を交互に前後に振動する運動が含まれているため、スプリント動作との類似性の高さがより関係しているものと考えられる。
次に、SQJとSSQJの測定に用いたバーベルは、SQ1RMに体重を加算した重量(Total System Weight:TSW)の8.5±1.25%に相当する負荷であったが、TSW の上位群は下位群に比べて高い相関を示したため、TSWによってトレーニング強度を検討する必要性があることが示唆された。

【まとめ】
VS10の改善にはVS10との類似性が高いSSQJやSQJで体重当たりの脚パワーを向上させる必要があるが、トレーニング強度については、脚筋力や体重を含めた検討が必要である。

脳震盪の後遺症?でもラグビーは楽しんで欲しい!

脳震盪の後遺症?でもラグビーは楽しんで欲しい!

井上丈久(晋真会ベリタス病院)

キーワード:脳震盪、後遺症、てんかん、認知症

1.はじめに 
 脳神経外科外来において、ラグビーによる脳震盪が原因と考えられるてんかんの症例と認知症の症例を経験したので報告する。いろんなレベルでのラグビーの経験ある演者の「皆にラグビーを楽しんで欲しい」という独断と偏見より その後の疾病管理と生活指導に関しての経過を報告し、ラグビーのリスク管理、特に頭部外傷について、手術治療経験より緊急治療体制についても言及する。

2.症例 
 症例1は16歳、高校2年生。主訴は意識消失発作。平成20年12月、学校で休憩時間中に急に身体を震わせて前方へ転倒し顔面打撲。紹介され受診する。ここ3ヶ月の間に何度かコントロールできない身体の震えがあった。小学生のときからスクールで活動、ポジションはセンター。中学2年生の春、試合中に脳震盪。精査にててんかんと診断、抗痙攣剤投与。CT上後頭蓋下にくも膜のう胞認める。
症例2は58歳男性。仕事は会社経営。主訴は頭痛。55歳頃から言葉が出にくくなる。専門病院での検査にて、特に問題ないといわれ経過見ている。頭痛が強くなり受診。ラグビーは大学時代関西Bリーグでプレー、ポジションはNo8。外傷の既往は頻回、大学時代、合宿中に2度の脳震盪、試合中にも退場経験ある。その後もクラブチームでプレー続けている。名詞(物の名前)が特に出ない。平成20年に入り症状進行、初期のアルツハイマー病と診断。10月から頭痛が強くなり当科受診。画像上前頭葉の萎縮認める。

3.結果と考察 
 症例1は受診後発作なく、練習、試合を続けている。問題は後頭蓋下くも膜のう胞。外傷により問題が出る可能性あり。どうするか?トップレベルの高校。大学もプレー予定、レベルの高いコンタクトの強いゲームになる。しかし今までも脳震盪は1度だが何度か頭部打撲あり。私の独断と偏見で「淘汰」されていると判断し特にプレー中止は指示していない。むしろ、トップレベルでの試合、練習、合宿に関しての外傷、病気に対してリスク管理を我々がしっかりとする必要あり。
 症例2はパンチドランカーと判断。一番生き生きと元気なのはラグビーしているときで、普通と変わりなくできる。仲間の理解と慣れた環境で楽しく暮らすことが認知症の進行を抑えるには一番効果あり。アリセプト投与し定期的に外来受診しているが元気。今回の頭痛は?自分の障害を理解しているので一方的に障害者として扱われると落ち込む。普通に基本的に世の中には障害者はいない。皆 普通の人間、個性ある。そのつもりで皆が一人一人が認め合い自覚して生きていく必要あり。個性があるということは 弱さも違う 弱い部分に関してもしものときに対応でき、普通に正確に結果良く問題、解決できるようにするのが管理者の役目。

4.まとめ 
 脳震盪と診断された場合には3週間の試合出場禁止。またセカンドインパクトによる重症化を避けるためにコンタクトプレーは控えるのが大切と考える。基本的にこの2症例は脳震盪の後遺症と考える。てんかん、認知症は普段の生活の中で発見される。生活の適切な管理と外来での正確な診断と適切な治療と指導でラグビーを続けることができると考える。症例2はその生活のQOLを保ち、症状進行を抑えるにはご家族を中心に周囲のラグビー仲間達の配慮や協力が欠かせない。症例1はくも膜のう胞があるが今まで問題ない。今後のプレーの継続のために是非とも必要なのは、もしものときに受傷現場(特に試合、合宿)での一刻も早い判断、一刻も早い診断、そして一刻も早い治療。そのための配慮と準備は、皆が存分に安心してそしてより多くの人が ラグビーを楽しむためには絶対に欠かせない。組織的なリスク管理の体制、施設管理の整備は管理現場の責任、協会の責任。リスク管理は生きるうえでの基本。

ラグビーにおけるコンタクトの意味

ラグビーにおけるコンタクトの意味

平尾剛(神戸親和女子大学)

キーワード:身体性、競技特性、接触、ラグビーの魅力

1.目的
 長らくの競技経験を顧みれば、ラグビーが魅力的なスポーツであることに私は独断的な確信がある。今でも目を閉じれば数々のシーンが甦ってきて身体が熱くなる。ラグビーには人々を惹きつける何かが存在すると信じてやまない。しかしながら、こうした「体感的な面白さ」は選手個々の主観に左右されるために、きわめて抽象的な表現にならざるを得ない。たとえ経験者同士での共通理解や共感に至ることはあっても、未経験者や観戦者には伝わりにくいものである。「やったらわかる」では些か排他的に過ぎるだろう。本発表では、主観的で抽象的な「体感的な面白さ」について、哲学的な視点からの考察を試みる。周知のようにラグビーにはコンタクトプレーがほぼ全面的に許されている。特に球技という性格を保持しつつ格闘技さながらの身体接触が伴う点に着目し、ラグビーにおけるコンタクトの意味を探究する。

2.方法
 選手時代の経験と文献からの引用を照らし合わせ、身体論の文脈に沿って考察する。

3.結果と考察
 ラグビーにおける「コンタクト」は、その質から以下の2つに大別できる。一つは、相撲やボクシング、またはK-1などの総合格闘技における相手にダメージを与えるためのコンタクトと同質な「タックル系」。もう一つは、ラグビーにしかみられない、味方同士が身を寄せ合って互いの力を合算するような「スクラム系」である。ラグビーでは無意識のレベルでこの2つの身体感覚の使い分けが求められるが、特に「スクラム系」の身体接触を伴う機会がラグビーには豊富に用意されている。この「スクラム系」こそがラグビーに特徴的なコンタクトプレーである。

4.結論
 他に類をみない「スクラム系」のコンタクトには、お互いの身体を預け合うような身体所作が求められる。こうした身体所作は、受動と能動が同時に起こる「接触」という感覚の、その根源的意味における体感とは言えないだろうか。相手にダメージを与えるのではなくお互いの力を結集するためのこうした身体接触には、人間同士が通じ合うためのコミュニケーションの原型を予感させる。他者とのつながりの直接的な体感、それこそがラグビーに秘めたる魅力であると考える。

日本ラグビー学会第2回大会 開催内容

日本ラグビー学会第2回大会

開催日:平成21年3月29日(日)
会場:関西大学 第二学舎(1号館)

■一般演題発表:10:00~12:00 B・C会場

■シンポジウムⅠ:13:00~14:30 A会場
高校ラグビー「強豪チームの秘策を探る」
コーディネーター:村上 晃一(ラグビージャーナリスト)
《シンポジスト》
杉本誠二郎(常翔啓光学園高校 教諭)
竹田 寛行(御所工業・実業高校 教諭)
谷崎 重幸(東福岡高校 教諭)
湯浅 泰正(京都成章高校 教諭)

■シンポジウムⅡ:14:40~16:00 A会場
「他競技から学ぶ」剣道・相撲とラグビー
コーディネーター:小田 伸午(京都大学 教授)
《シンポジスト》
剣  道:木寺 英史(久留米工業高等専門学校 准教授)
相  撲:川口  浩 (関西大学 元相撲部監督)
ラグビー:川村 幸治(大阪府立阪南高校 校長)

■日本ラグビー学会第2回大会実行委員会
  大会長   溝畑 寛二
  委員長   三野  耕
  副委員長  石指 宏通
  委 員   青木 敦英  川端 泰三 千葉 英史  灘  英世
        馬場  満   村田 トオル
■学会大会事務局
  〒564-8680
  大阪府吹田市山手町3-3-35
  関西大学 身体運動文化専修 溝畑寛治気付
  日本ラグビー学会第1回大会事務局
  TEL&FAX T,06-6368-1144  F,06-6368-1268
 
■学会大会当日事務局
  関西大学第二学舎1号館内

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