脳震盪の後遺症?でもラグビーは楽しんで欲しい!

脳震盪の後遺症?でもラグビーは楽しんで欲しい!

井上丈久(晋真会ベリタス病院)

キーワード:脳震盪、後遺症、てんかん、認知症

1.はじめに 
 脳神経外科外来において、ラグビーによる脳震盪が原因と考えられるてんかんの症例と認知症の症例を経験したので報告する。いろんなレベルでのラグビーの経験ある演者の「皆にラグビーを楽しんで欲しい」という独断と偏見より その後の疾病管理と生活指導に関しての経過を報告し、ラグビーのリスク管理、特に頭部外傷について、手術治療経験より緊急治療体制についても言及する。

2.症例 
 症例1は16歳、高校2年生。主訴は意識消失発作。平成20年12月、学校で休憩時間中に急に身体を震わせて前方へ転倒し顔面打撲。紹介され受診する。ここ3ヶ月の間に何度かコントロールできない身体の震えがあった。小学生のときからスクールで活動、ポジションはセンター。中学2年生の春、試合中に脳震盪。精査にててんかんと診断、抗痙攣剤投与。CT上後頭蓋下にくも膜のう胞認める。
症例2は58歳男性。仕事は会社経営。主訴は頭痛。55歳頃から言葉が出にくくなる。専門病院での検査にて、特に問題ないといわれ経過見ている。頭痛が強くなり受診。ラグビーは大学時代関西Bリーグでプレー、ポジションはNo8。外傷の既往は頻回、大学時代、合宿中に2度の脳震盪、試合中にも退場経験ある。その後もクラブチームでプレー続けている。名詞(物の名前)が特に出ない。平成20年に入り症状進行、初期のアルツハイマー病と診断。10月から頭痛が強くなり当科受診。画像上前頭葉の萎縮認める。

3.結果と考察 
 症例1は受診後発作なく、練習、試合を続けている。問題は後頭蓋下くも膜のう胞。外傷により問題が出る可能性あり。どうするか?トップレベルの高校。大学もプレー予定、レベルの高いコンタクトの強いゲームになる。しかし今までも脳震盪は1度だが何度か頭部打撲あり。私の独断と偏見で「淘汰」されていると判断し特にプレー中止は指示していない。むしろ、トップレベルでの試合、練習、合宿に関しての外傷、病気に対してリスク管理を我々がしっかりとする必要あり。
 症例2はパンチドランカーと判断。一番生き生きと元気なのはラグビーしているときで、普通と変わりなくできる。仲間の理解と慣れた環境で楽しく暮らすことが認知症の進行を抑えるには一番効果あり。アリセプト投与し定期的に外来受診しているが元気。今回の頭痛は?自分の障害を理解しているので一方的に障害者として扱われると落ち込む。普通に基本的に世の中には障害者はいない。皆 普通の人間、個性ある。そのつもりで皆が一人一人が認め合い自覚して生きていく必要あり。個性があるということは 弱さも違う 弱い部分に関してもしものときに対応でき、普通に正確に結果良く問題、解決できるようにするのが管理者の役目。

4.まとめ 
 脳震盪と診断された場合には3週間の試合出場禁止。またセカンドインパクトによる重症化を避けるためにコンタクトプレーは控えるのが大切と考える。基本的にこの2症例は脳震盪の後遺症と考える。てんかん、認知症は普段の生活の中で発見される。生活の適切な管理と外来での正確な診断と適切な治療と指導でラグビーを続けることができると考える。症例2はその生活のQOLを保ち、症状進行を抑えるにはご家族を中心に周囲のラグビー仲間達の配慮や協力が欠かせない。症例1はくも膜のう胞があるが今まで問題ない。今後のプレーの継続のために是非とも必要なのは、もしものときに受傷現場(特に試合、合宿)での一刻も早い判断、一刻も早い診断、そして一刻も早い治療。そのための配慮と準備は、皆が存分に安心してそしてより多くの人が ラグビーを楽しむためには絶対に欠かせない。組織的なリスク管理の体制、施設管理の整備は管理現場の責任、協会の責任。リスク管理は生きるうえでの基本。

ラグビーにおけるコンタクトの意味

ラグビーにおけるコンタクトの意味

平尾剛(神戸親和女子大学)

キーワード:身体性、競技特性、接触、ラグビーの魅力

1.目的
 長らくの競技経験を顧みれば、ラグビーが魅力的なスポーツであることに私は独断的な確信がある。今でも目を閉じれば数々のシーンが甦ってきて身体が熱くなる。ラグビーには人々を惹きつける何かが存在すると信じてやまない。しかしながら、こうした「体感的な面白さ」は選手個々の主観に左右されるために、きわめて抽象的な表現にならざるを得ない。たとえ経験者同士での共通理解や共感に至ることはあっても、未経験者や観戦者には伝わりにくいものである。「やったらわかる」では些か排他的に過ぎるだろう。本発表では、主観的で抽象的な「体感的な面白さ」について、哲学的な視点からの考察を試みる。周知のようにラグビーにはコンタクトプレーがほぼ全面的に許されている。特に球技という性格を保持しつつ格闘技さながらの身体接触が伴う点に着目し、ラグビーにおけるコンタクトの意味を探究する。

2.方法
 選手時代の経験と文献からの引用を照らし合わせ、身体論の文脈に沿って考察する。

3.結果と考察
 ラグビーにおける「コンタクト」は、その質から以下の2つに大別できる。一つは、相撲やボクシング、またはK-1などの総合格闘技における相手にダメージを与えるためのコンタクトと同質な「タックル系」。もう一つは、ラグビーにしかみられない、味方同士が身を寄せ合って互いの力を合算するような「スクラム系」である。ラグビーでは無意識のレベルでこの2つの身体感覚の使い分けが求められるが、特に「スクラム系」の身体接触を伴う機会がラグビーには豊富に用意されている。この「スクラム系」こそがラグビーに特徴的なコンタクトプレーである。

4.結論
 他に類をみない「スクラム系」のコンタクトには、お互いの身体を預け合うような身体所作が求められる。こうした身体所作は、受動と能動が同時に起こる「接触」という感覚の、その根源的意味における体感とは言えないだろうか。相手にダメージを与えるのではなくお互いの力を結集するためのこうした身体接触には、人間同士が通じ合うためのコミュニケーションの原型を予感させる。他者とのつながりの直接的な体感、それこそがラグビーに秘めたる魅力であると考える。

日本ラグビー学会第2回大会 開催内容

日本ラグビー学会第2回大会

開催日:平成21年3月29日(日)
会場:関西大学 第二学舎(1号館)

■一般演題発表:10:00~12:00 B・C会場

■シンポジウムⅠ:13:00~14:30 A会場
高校ラグビー「強豪チームの秘策を探る」
コーディネーター:村上 晃一(ラグビージャーナリスト)
《シンポジスト》
杉本誠二郎(常翔啓光学園高校 教諭)
竹田 寛行(御所工業・実業高校 教諭)
谷崎 重幸(東福岡高校 教諭)
湯浅 泰正(京都成章高校 教諭)

■シンポジウムⅡ:14:40~16:00 A会場
「他競技から学ぶ」剣道・相撲とラグビー
コーディネーター:小田 伸午(京都大学 教授)
《シンポジスト》
剣  道:木寺 英史(久留米工業高等専門学校 准教授)
相  撲:川口  浩 (関西大学 元相撲部監督)
ラグビー:川村 幸治(大阪府立阪南高校 校長)

■日本ラグビー学会第2回大会実行委員会
  大会長   溝畑 寛二
  委員長   三野  耕
  副委員長  石指 宏通
  委 員   青木 敦英  川端 泰三 千葉 英史  灘  英世
        馬場  満   村田 トオル
■学会大会事務局
  〒564-8680
  大阪府吹田市山手町3-3-35
  関西大学 身体運動文化専修 溝畑寛治気付
  日本ラグビー学会第1回大会事務局
  TEL&FAX T,06-6368-1144  F,06-6368-1268
 
■学会大会当日事務局
  関西大学第二学舎1号館内

日本ラグビー学会誌「ラグビーフォーラム」創刊によせて

日本ラグビー学会誌「ラグビーフォーラム」創刊によせて

日本ラグビー学会
会 長  溝畑寛治

 平成19年6月に発足いたしました日本ラグビー学会が、研究紀要として、ここに「ラグビーフォーラム」を創刊することが出来ます事は、われわれ学会関係者にとりまして大きな喜びであります。日本の、いや世界のラグビー発展に向けて創造的な論文や、エッセー、経験談など数多く寄せられ、この紀要が広くラグビー学会の存在を誇示する学会誌となりますことを念願いたしておあります。
 永年にわたりアマチュアリズムを堅持し続けてきたラグビーが、オープン化に踏み切った事により、世界のラグビー界は歴史的に大きく一変する状況を招く事になりました。プロ化は勝つことを強いられることにもつながり、競技力の向上、普及育成をはじめ、IT化の促進やメディア対応など、あらゆる環境の変化に適応する能力をもたなければならないし、より高度な技術や迫力あるゲームを観客に見せなければなりません。そのことが原因してかどうかわかりませんが、勝つ事のみに終始する傾向から、ラグビーの持つノーサイドの精神、フェアプレー、スポーツマンシップなど、本来の「ラグビー精神」が失われていくという傾向が見られはじめたことは事実であります。また一方で、近年人間関係のコミュニケーション不足などによる不可解な殺傷事件が相次いで起きています。特に子どもの問題は大人が猛反省をしなければならないし、襟を正さなければなりません。
 今や子どもたちを心身の歪みから救うにはスポーツ(特にラグビー)しかないと言っても過言ではないでしょう。この学会では、これらの問題に向けても体育学などの研究者だけでなく開かれた学会として、少年スクールや中学・高校など発育期における各年代層の指導者や、ラグビーファンの方々にも参加をもとめて指導現場での知恵を生かした研究や視点からの意見をいただき、あらゆる方向から情報が発信できるようにしたいと思っています。
 また、本学会は日本ラグビーフットボール協会がビジョンとして示されているように「ラグビー競技を誰からも愛され、親しまれ、楽しまれる、人気の高いスポーツにする」ことを目的に、「実践と理論の融合された」競技力の高い、人格的に優れた「人材の育成」と「環境つくり」に向けての再構築を目指しラグビーを通じた人間教育に貢献したいと思っています。そのためにも体育学、教育学、社会学、哲学、心理学、医学等あらゆる分野からのアプローチを視野に入れ、各専門的な学問領域でご活躍の方々から一般ファンの方々まで幅広く参画していただくことにより、ラグビーというスポーツのアイデンティティの確立に、研究という側面から寄与したいと思っています。
今はまだ、組織や諸規則が動き始めたところであります。会員の皆様方の力を結集して内実を立派なものに作り上げていきたいと思っています。ご協力のほどよろしくお願いいたします。

生涯スポーツとしてのラグビー

生涯スポーツとしてのラグビー

鈴木道男(どんぐりラグビークラブ)

キーワード:健康、いきがい、シニア、生涯スポーツ

○目的
社会の少子高齢化で増加の壮年・高齢世代(40歳以上)を対象としたラグビーの普及です。
あわせて壮年、高齢者(シニア層)年代の健康増進と生きがいの提供、また生涯の健康時間確保、増大による医療費節減を目的としています。壮年層のラグビー取り込みにより、ラグビーファン層の拡大、家族、友人、子供たちのラグビー参加機会の増大などを目的として活動しています。

○方法
・40歳以上の壮年層対象としたシニアエンジョイラグビー実施、イベント開催(交流大会など)
・遠征、来征チームの受け入れなど、ラグビーゲームを通じて各地のラガーと交流
・安全に配慮した芝生グランドを使用
・壮年主体のクラブチーム(どんぐりラグビークラブ)を発足して、壮年対象のラグビー機会提供

○結果と考察
・実施・運営母体⇒1996年12月大阪府ラグビー協会クラブ登録(どんぐりラグビークラブ)
・参加者⇒1996~2006年に約400試合、のべ約9000名のメンバー参加を得る
・運営⇒参加費システムの導入による合理的クラブ会計
・エンジョイラグビーの確立⇒ゲームコンセプト、レフリングなど、ノウハウ提案
・グランドの確保⇒環境、立地のいい芝生グランドの確保、女性、子供、環境に優しい設備
花園ラグビー場、東大阪多目的グランド、長居第二陸上競技場、
鶴見緑地球技場、舞洲球技場、大阪体育大学ラグビー場、神戸製鋼灘浜、ほか

○遠征交流 
【国内】
東京都、長野県、石川県、富山県、福井県、岐阜県、三重県、滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、徳島県、香川県、高知県
【海外】
中国(香港)、台湾、タイ
 
○今後の課題
【1】モラルの維持⇒コンプライアンス、マナー向上は発展の要(基本理念)
【2】運営専任のスタッフ養成⇒スポーツマネジメントの充実(人材育成)
【3】コンセプトの確立と運営⇒安全と楽しみの両立(エンジョイ)

○まとめ   
生涯スポーツとしてのラグビーは、「健康増進と生きがいの提供」、大きな社会貢献ができます。また生涯スポーツとして、これからも適切な運営・対応をすることができれば、健康増進とあわせて、ラグビーの発展・活性化に大きく寄与できるものです。

○どんぐりラグビークラブ
2004年 日本初の「禁煙宣言」クラブです。(グランド、懇親会などすべて禁煙実施しています。)
2007年 より安全に、初心者層の取り込みも図りながらラグビー競技者、ファン層の拡大を目指した「おとなのラグビースクール」を発足しました。
これからも活動を通して、高齢化社会に貢献できるラグヒーの提案、普及を行います。

« »