社会人ラグビーフットボール選手における プレシーズンおよびシーズン中の身体組成の変化と栄養摂取状況

山下千晶、米浪直子(京都女子大学大学院)

キーワード:身体組成、エネルギー・栄養素摂取量、プレシーズン、シーズン

Ⅰ. 目的
近年、トレーニングのみならず栄養補給にも関心が寄せられ、様々なチームで栄養士による食事管理が行われるようになってきている。そこで、本研究ではラグビーフットボール選手の競技特性に合った食事指導を行うために、身体組成の変化と食事・栄養摂取状況を合わせて検討を行った。

Ⅱ. 方法
 対象者は、トップウエストA1リーグに属する社会人ラグビーフットボール選手男性22名(Forwards 12名、Backs 10名)、年齢 23±4 歳とした。2月から8月のプレシーズン、その後12月までのシーズン中における体重、体脂肪率(%BF)、除脂肪量(LBM)の測定を行った。8月に半定量食物摂取頻度調査法による食事調査を実施した。

Ⅲ. 結果
体重は、2月、4月、8月および12月のいずれの期間においても有意な変化はみられなかった。%BFは、2月と比較して8月および12月に有意な減少がみられた(p<0.05)。LBMについては、2月と4月の間に有意に増加し(p<0.05)、その後12月まで維持されていた。2月から8月における個人の身体組成の変化による分類をTable.1に示した。体重およびLBMが増加し%BFが減少した者は9名であった。しかし、体重と%BFのいずれも増加した者が4名、体重とLBMのいずれも減少した者が7名みられた。食事調査の結果から、摂取量の平均は、穀類1208.5±270.9 g、緑黄色野菜類20.7±13.6 g、その他の野菜類44.3±17.9 g、魚介類49.4±34.8 g、肉類473.8±272.5 g、エネルギー3367±948 kcal/day、たんぱく質98.2±28.5 g/day、脂質107.2±40.0 g/day、炭水化物465.9±129.9 g/dayであり、エネルギー比率はたんぱく質12%、脂質 28%、炭水化物60 %であった。

Ⅳ. 考察
 対象者の平均では、シーズンに向けて有意な体重の変化はみられなかったが、%BFの減少およびLBMが増加していたことから、チーム全体として競技に有利な変化であったと考えられる。しかし、身体組成の変化には個人差があり、体重と%BFが増加した者や体重とLBMが減少した者もみられ、一部の者にケガのリスク上昇やコンタクトプレーにおけるパフォーマンスの低下が懸念された。食事調査結果からは、エネルギー比率の平均には問題はなかったが、野菜の摂取量が少なく、肉類中心の食事を摂取していることが推察された。今後、シーズンに向けてパフォーマンスの向上が期待できる体格形成のために、トレーニングと併せて野菜摂取の促進、外食や中食における食事選択についての指導や、個々人に応じた食事管理が必要であることが推察された。

社会人ラグビーチームの競技力向上に有効な組織変革過程の検討

吉田 明(日本大学文理学部人文科学研究所)
櫛 英彦(日本大学大学院文学研究科)
深田 喜八郎(日本大学大学院文学研究科)
高階 曜衣(日本大学大学院文学研究科)
天野 喜一朗(日本大学大学院文学研究科)

キーワード:組織改革、組織運営、組織戦略、自主性

1.目的
 いかなる組織においても、継続して良い成績を収めるためには、周囲の変化に沿った組織変革が必要となる。本研究は、社会人ラグビーチームが、チームの低迷から、組織変革により成功した過程を検証し、ラグビーチームの強化に適した組織変革論を検討することを目的とした。

2.方法
 対象は、ジャパンラグビートップリーグ上位に位置する、サントリーサンゴリアスとコベルコスティーラーズとした。サンゴリアスとスティーラーズが、チームの低迷から組織変革により再び上位チームへ戻る過程をジョン・P・コッターの「8段階プロセスモデル」に当てはめ、共通の変革過程が存在するか否かを検討した。ジョン・P・コッターの「8段階プロセスモデル」は、①危機意識を高める、②変革のための連帯チームを築く、③ビジョンと戦略を生み出す、④変革のためのビジョンを周知徹底する、⑤自発的な行動を促す、⑥短期的成果を実現する、⑦成果を活かしてさらなる変革を推進する、⑧新しい方法を企業文化に定着させる、という8段階のプロセスから成り立っている。 
ジョン・P・コッターは、変革に必須となる条件や、従業員への働きかけ、リーダーの資質や取るべき行動など、各段階における具体的な記述をもとに、変革論を提唱している。

3.結果と考察
 両チームとも、監督による選手への働きかけとして、①危機意識を高める、②ビジョンと戦略を生み出す、③変革のためのビジョンを周知徹底する、④自発的な行動を促す、⑤短期的成果を実現する、⑥成果を活かしてさらなる変革を推進する、という6つの共通した過程が存在した。これらの過程の中でもチーム改革には、「自主性の確立」が特に重要であると考えられる。サントリーは徹底した走り込みとサインプレーによる練習を課し、神戸製鋼は監督による自主性を無視した練習を行い、ラグビーの厳しさを伝えた。そして、短期的成果を達成することで、選手たちに向上心が生まれ逆に自主性が確立された。自主性を考慮しない指導は、選手にマイナスの影響を及ぼすように考えられているが、短期的成果を得ることができれば、選手の自主性が確立される手段になると考えられる。例え社会人チームであっても、徹底して管理することが「自主性の確立」には必要であると考えられる。

4.結論
 ラグビーチームの変革には6つの共通した過程が存在することを明らかにした。その中でも、“選手の自主性を確立させる”という段階が、変革にとって重要な過程であると考えられる。

ラガール普及法 ~アンケート調査から紐解く~

財田 幸治(兵庫県立神戸甲北高等学校)

キーワード:仲間・安心安全・憧れ・競技人口

【はじめに】
 本校は、高校からラグビーを始めるラガール数日本1位である。選抜大会においても開催年から3年連続単独出場は本校のみ。ラガールの普及方法の方法論を明らかにし、コベルコカップ2014第4回全国高等学校女子7人制ラグビーフットボール大会に参加した高校女子選手、近畿高校女子選手のアンケート結果を元に実証していきたい。

【方法】女子ラグビーの普及方法
1.カッコよさを演出<クラブ運営・身なり・日常生活・リーダーシップ>
2.ラグビーが当たり前の環境<北区ラグビーフェスティバル・地域の口コミ・地域誌>
3.安心安全をPR<7人制の浸透・鬼ごっこ・マスメディアの協力・柔道場での接点練習・試合は芝生のみ・トレーナーの協力・テーピングの積極的活用>
4.憧れの存在<結果を出す・目標大会・リーダーシップ・学校での発表>
5.勧誘のポイント<誰が声掛け・夢を語る・身近で手軽>
6.ラグビー本来の楽しさを体験<体験内容・練習メニューの工夫・公式戦・練習試合>

【結果と考察】
 コベルコカップ 2014第4回全国高等学校女子7人制ラグビーフットボール大会に参加した普及・ハイパフォーマンス127名(北海道8名、東北15名、北信越16名、東海17名、中国17名、四国20名、九州34名)、近畿64名 計191名のアンケート結果から考察する。
・ラグビーを始めた理由<楽しそう42.4%、先生・友人の勧誘48.7%、雰囲気22.5%>
・影響を受けた人<先輩25.0%、友人21.7%、親18.5%、兄弟16.8%、先生13.0%>
・ラグビーを勧誘して断られた理由<怖い26.3%、痛い22.0%、危ない19.5%>
・ラグビーの嫌いな部分<痛い35%、しんどい29.8%、危ない17.3%、太る・筋肉がつく15.2%>
・ラグビーの良さ<仲間ができる68.6%、トライをとる爽快感56.6%、みんなで繋いでトライ55.0%、ラグビー自体54.5%、全国に仲間ができる51.8%、相手を抜いた時45.0%>
 アンケート結果から本校の勧誘方法のコンセプトは、的を射ている。

【まとめ】
 小学生の時にラグビーを始めるのは、親・兄弟の影響が大きい。しかし高校からラグビーを始める理由は、安心安全で熱意のある先生の元に、夢を追い続ける先輩・仲間がいる環境である。そんな環境を作るためには、指導者自身が本気になれる環境に身を置き、ラグビーに指導者が育てられ、指導者がラグビーを創らなければならない。創造力のある指導者数を増やすことが女子ラグビー界の課題である。

高校ラグビーOB大会開催が出場者の競技復帰意思に及ぼす影響について

舩越 達也 (大阪国際大学)

キーワード : 高校ラグビー,競技復帰,スポーツイベント,スポーツの再社会化

Ⅰ.はじめに
ラグビー競技人口減少が著しい我が国のラグビー界において、再び競技人口増加に転ずるためにはジュニア層からの競技参加者を獲得することが不可欠である。そのためには、日常よりラグビーを競技実施・継続しているプレイヤーの定着を図るだけでなくすでに競技から離脱した経験者を再び競技復帰させるような機会提供が重要であると考えられる。その機会としてのラグビー競技経験者の参加を促す競技イベントを効果的に開催することで競技復帰者の拡大のみならず、その競技復帰が次世代の競技者獲得に影響を与え、結果としてラグビー競技人口増加につながるといった効果について検証をしていくことが必要である。

Ⅱ.研究の目的
本研究では、現在競技から離脱しているラグビー経験者に競技復帰の機会を提供しているスポーツイベントに着目して、そこに出場するOBプレイヤーたちの意識を把握することにより、ラグビーにおける競技復帰を促す機会を提供するスポーツイベントの効果や課題を明らかにすることを目的とする。
また、競技離脱者に対するどのような働きかけがこのようなイベントへの参加促進につながるのかということについて検討を行なう。

Ⅲ.方法
2014年4月27日に大阪・近鉄花園ラグビー場にて開催された「第10回昔なつかしの高校OB交流戦」において、参加者がどのような意識で大会に出場しているのか記述式アンケート調査によって把握した。
主な調査内容は、出場者の大会参加に至った経緯、競技を実施するために必要な環境、今後の競技継続意思、競技を実施する上で重視する条件などである。
アンケート調査は大会出場者全員に無記名式の調査用紙を配布してその場で回収を行ない、そこで得られたデータに対して統計アプリケーションソフトにより基本統計量を算出した後に、各変数との平均値の差の検定ならびにクロス集計などを行った。
これらの結果から、参加者の日常的な競技実施状況や本大会への参加経験有無といった属性の違いによる比較を行ないその特性について検討した。

Ⅳ.結果および考察
今大会での出場者には、現在も日常的にラグビーを競技している「復帰定着群」と今大会以外ではほとんどラグビーをプレーしていない「復帰未定着群」に分類できた。さらに後者を今大会に継続して出場している「復帰途上群」と今回始めて参加した「潜在復帰者」に分類して、競技経験者のそれぞれ3つのステージにおける意識特性を比較した。
その結果、日常的な競技実施状況によって「大会出場の理由」や「ラグビーを競技する理由」「出場に必要な条件」「競技実施時に重視する条件」において競技経験者の意識傾向に違いがみられた。また、今大会への参加経験有無によって「出場理由」「ラグビーを競技する理由」「出場に必要な条件」において同様に意識傾向の違いがみられたが「競技実施時に重視する条件」には大きな差はみられなかった。
各群における本大会出場者の次回大会への出場意思を示す割合は高く(94.2~100.0%)、一度の大会出場によってラグビー競技経験者の競技復帰につながる可能性がみられ、さらに「今後出場をやめる場合の理由」については出場者の属性による傾向の違いはみられなかったが、そこにラグビーという競技種目上の安全面における課題がみられた。
 これらのことから、競技経験者の競技復帰という行動変容としての再社会化につなげることを目的として、競技離脱者から今後さらに参加者の獲得・定着をしていくために本大会のようなスポーツイベントの継続的な開催は有効であると考えられる。さらに競技離脱者に対して安全な競技環境の提供や大会参加によって得られる効果について積極的にPRしていくことが新規参加者の獲得・定着につながるという期待ができる。

ラグビーフォーラムNo.8

ラグビーフォーラムNo.8(2015年3月発行)
JAPAN RESEARCH JOURNAL OF RUGBY FORUM No.8 (March 2015)


〔原著論文〕

スポーツ国際試合と他者化
―1970年代のラグビー日本代表戦に関する英国メディア言説の考察―

森 仁志

7人制ラグビーと15人制ラグビーのペナルティの発生とプレー選択の比較
 ―ブレイクダウン場面に着目して―

木内 誠

コーチング再考 忘れられたラグビーの原点
 ~ラグビー文化の再興を目指して~

高木 應光  星野 繁一

全国高等学校ラグビーフットボール花園大会における脳震盪に関して

外山 幸正

社会人ラグビーフットボール選手におけるプレシーズンおよびシーズン中の身体組成の変化と栄養摂取状況

 山下 千晶  米浪 直子

立位姿勢における静的および動的平衡性の分析
 ―ラグビースクールの子どもと一般小学生の比較―

 灘 英世  新宅 幸憲  溝畑 潤  溝畑 寛治

〔研究資料〕

女子ラグビーの現状と今後の課題
 ―Japan Women’s Sevens 2014出場チームへのアンケート結果より―

寺田 泰人  岡本 昌也  高田 正義  廣瀬 かほる  寺田 恭子

大学選手権大会における得点の変化について

高津 浩彰  岡本 昌也

(氏名:敬称略)

日本ラグビー学会誌 「ラグビーフォーラム」No8
平成27年3月28日 印刷発行 非売品
発行者   日本ラグビー学会 会長     溝畑寛治
発行所   〒564-8680
      大阪府吹田市山手町3-3-35
      関西大学 千里山キャンパス 中央体育館
      日本ラグビー学会事務局
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