愛知県ラグビーフットボール協会における女子ラグビー強化の取り組み

―国民体育大会での正式競技としての導入に向けて―

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部) 岡本昌也(愛知工業大学)
高田正義(愛知学院大学)廣瀬かほる(防衛医科大学校) 
寺田恭子(名古屋短期大学)

キーワード:女子ラグビー、オリンピック、国民体育大会、強化対策

【はじめに】
2016年リオデジャネイロ五輪から男女の7人制ラグビーがオリンピック種目として採用決定して以降、日本ラグビー協会では女子ラグビーの普及・強化を急ピッチで進めている。しかし本研究者らが昨年の本学会第7回大会において発表したように日本における女子ラグビーの歴史は浅く、競技人口、競技環境など課題はまだまだ多いのが現状である。
そのような中、(公財)日本ラグビーフットボール協会は平成26年5月15日付で「国民体育大会 女子ラグビーの正式競技について」という通達を出した。内容は2020年東京オリンピックに向けた対応として現在、国民体育大会(以下、国体と表記)において未実施となっているオリンピック競技(女子ラグビー)を国体に導入するための実行計画の通知と各都道府県協会で国体に向けて代表チームをつくることを要請するものである。

【日本協会の方策】
実行計画では、平成26(2014)年度から平成34(2022)年度までの9年間について、平成26(2014)年度から平成28(2016)年度までの3年間を導入期間として、ステップ1~3に分け、その後平成34(2022)年度までを実行段階としている。(下記参照)
*ステップ1(2014年 長崎県):既にイベント事業(エキシビジョン含む)として実施している競技種目から導入。
*ステップ2(2015年 和歌山県):調整が整った競技種目からイベント事業(エキシビジョン含む)として導入。
*ステップ3(2016年 岩手県):条件を満たしたオリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として導入。
*継続期間(2017年 愛媛県、2018年 福井県):オリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として実施。
*継続期間(2019年 茨城県、2020年 鹿児島県、2021年 三重県、2022年 栃木県):オリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として実施。

【愛知県協会の取り組み】
愛知県には日本における女子ラグビー創世記から存続する「名古屋レディース」という全国的にも強豪といえるチームが存在する。そのため女子ラグビー選手が活動する機会は保障されているものの、その競技環境等はとても十分とは言えないのが実情である。一方、スクールの女児や女子中・高校生のオリンピックを目指してラグビーをしたいというニーズは年々高まってきている。愛知県ラグビーフットボール協会女子委員会では日本協会の通達を受けて、県内女子ラグビー選手の育成・発展・強化を図るための方策を鋭意検討中であり、学会発表にてその内容を今後の課題と合わせて説明する。

「ラグビーの精神・歴史・伝統への理解」についての一考察

西村克美(嵯峨野高校) 星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(神戸居留地研究会)

キーワード:ラグビーの精神・歴史・伝統、プライド

1.目的
自らがプレーするラグビーの精神・歴史・伝統を理解し、ラグビーが他種目に比べ明らかにブランドスポーツであることを認識する。その一助とするために調査を行った。

2.調査方法
クイズ形式の調査票(別紙:発表時配布)を作成・配布し、小学校5・6年生69名、中学76名、高校100名、大学生973名、指導者126名から回答を得た(2014・7~11)。調査票の回収後に正解及び解説をプリント・配布し、ラグビーの精神・伝統・歴史についての理解を求めた。

3.結果と考察
(集計結果は別紙:発表時配布)
1「ラグビー」の語源: 語源についてはラグビー校からの由来がよく知られるが、町名・地名に思いが至らなかったようである。正解②「町の名前」と答えた割合は、年齢と共に高い数値を示した。中でも50歳以上の指導者の8割近い数字が目立った。残念なのは大学生で、「分からない・知らない」が最多の24.5%で、しかも正解者の少なさ55.3%も気にかかる。
2「クラブ・部活」のルーツ国:小学生以外では正解②英国、と予測が可能なようで高い正解率(中学71.1~指導者90.5%)を示した。19C前半ラグビー校でアーノルド校長以降、生徒たちが放課後、自主的にフットボール(サッカーではなくラグビーの意)を実施するようになった。これが今日のクラブ・部活のルーツと考えられ、ラグビーがブランドスポーツと言える歴史・伝統である。
3「ラグビーはサッカーから生れた」との間違った言説は、日本協会の失態やマスコミによって今や常識レベルとなっている。①とした不正解者が多く、小・中・高で6~7割、大学生で8割に近い。一方、高校の正解者では府県によって大きな差も見られた(H44.1%⇔K3.1%)。また、髙木・星野による同様の調査(1995年)と比較すると、今回よりも過去の方が、正解者の多い大学もあった(W大) 。この言説は、我われラグビーのいわば出生に関わるものだけに「ラグビーはサッカーから生れた」との誤解は是非とも解きたい。
4「クーベルタンが古代五輪を復活させた動機」:正解③「学園・青春ドラマ」を読んだから。クーベルタンが12歳の時『トム・ブラウンの学校生活』(ラグビー校OB著)を読み感動。やがてフランスの教育制度を英国型に、さらには世界の青少年に五輪を、と壮大な事業へとつながって行ったのだった。だが、④「知らない・分からない」が、いずれでも最多。ほとんど知られていない事実なので、機会あるごとにPRしラグビーのブランド力を示したい。
5「幻のトライ」:②聞いたことがないが7~8割と多数を占める。一方、指導者では5割、中でも50歳以上では逆に7割近くが①聞いたことがあると回答している。ラグビー最大の美談として語り継ぐことが大いに必要であろう。チームの強弱に関わらずフェアープレー、ジェントルマンリーに徹すること。そして、レフリーの判定に敬意を払い素直に従うことが、青少年の人格を成長させる。と同時にラグビーのブランド力アップに必ずや貢献すると考える。

おわりに
多くの大学(全国のトップレベル校)に協力を頂いたお陰で973人もの調査票を回収できた。だが、残念ながらラグビーの精神・歴史・伝統への理解度は低かった。スキルやフィットネス等にのみ時間が割かれているのだろう。これでは他種目と何ら変わるところがなく、自らにプライドを持ったラガーマンは育たない。他種目も認めるラグビーのブランド力(精神・歴史・伝統)をどの様に継承するか。我われ指導者の課題は大きい。

ラグビーウェア(Players clothing)の発展と機能について

-発達の歴史と役割を考察する-

鈴木 道男  (どんぐりラグビークラブ)

キーワード:ラグビーウェア、 デザイン、人間工学、機能、チームアイデンティティ

【目的】
ラグビーウェア(Players clothing)は、その時代性を反映し、選手やファンに大きな影響力を持つ。
ウェアの役割を解明することで、競技力向上やファンの拡大、ラグビー普及発展に寄与できる。
期待されるウェア(ジャージ)の未来を考察する。

【方法】 
ウェアサプライヤー、メーカー、工場など取材、所蔵ジャージの年代、素材、デザイン別調査により分析した。

【結果と考察】
1.ラグビーウェアの発達(歴史・沿革)
初期のウェアは、綿素材中心、毛混もあった。
ニット素材の編地、段柄ジャージなどのデザインが多く、使用カラーなど限られたデザインで、各チームの特徴を表現した。1995年頃まで、綿素材、長袖の伝統的クラシックデザインが続いた。
本体に背番号やエンブレム縫い付け、マーク刺繍などの技法で、重量も相対的に重くなった。
※年代別 ジャージ素材の変遷・特徴

2.デザイン革命⇒メッセージの発信へ
1987年~ワールドカップ開催、2003年~トップリーグなどプロ化により、スポンサーや大会ロゴマークをウェアに表示する必要があり、新素材開発、デザイン企画、縫製技術の研究が進んだ。 

3.素材革命⇒機能性繊維の開発・普及
吸汗速乾、簡易なメンテナンス、引き締め効果。

4.製造技術の革新、
人間工学に基づく曲線縫製、立体的シルエット
伸縮性素材で動きやすく、斬新なデザインの登場。

5.多様なデザイン創造
昇華プリント技術の確立と普及により、多様なデザインに対応して、ウェアの軽量化が進む。
A 選手・チームウェア 
勝利とプライド表現、運動機能向上
B レフリーウェア 
  12色相環、補色を意識したデザイン、独立性
C ファン、サポーター
 レプリカウェアでチームと一体化、共感
ビジュアル優先、見た目を意識、第一印象

※すべて所蔵しているジャージ抜粋にて調査(2015年資料)

6.未来のウェア役割と方向
斬新なデザイン、身体能力維持向上、軽量化で、選手をサポートするウェアが登場する。
デザイン⇒勝利、強さ、誇り、華やかさ、憧れ、
     よりイメージを重視
機能  ⇒体力維持、パワーアップ、持久力向上
縫製技術⇒選手個人対応するオーダーメード普及 
情報発信⇒洗練されたロゴマーク、
チームアイデンティティ表現

【まとめ】
ラグビーウェア(Players clothing)は、1995年以降技術革新が起こる。新しい素材とデザインは、2000年代にトップ強豪チームから一般チームまで飛躍的に普及発展、その地位を確立する。
ラグビーウェアの発達は、ラグビー普及に大きく寄与し、プレーヤーの安全とプライドを醸成する大切な要素である。またスポーツの存在感を増し、経済効果増大、普及拡大にも貢献する。
斬新なデザインと機能性は、勝利を呼び、選手やファンを華やかなスタイルで魅了し、ラグビー競技の魅力、新鮮な楽しみのオプションを広げる。
2019年ラグビーワールドカップ日本開催に向け、ますます進化するウェアに注目したい。

マネージャーによる試合内容分析に関する成果について

山川詩織、入江直樹、山田康博、三神憲一
(滋賀大学体育会ラグビー部)

キーワード:マネージャー、チーム力の分析、レフリー

【目的】
今回我々はチームマネージャーが試合内容をビデオなどで分析して、チーム力向上のために貢献することを新たな役割とした。この役割は戦力向上に役立つだけではなく、マネージャーなどの運営スタッフにも新たなやりがいを与え、チーム全体に付加価値を与えることとなった。その内容を報告する。

【方法】
検討した試合は2014年9月28日京都教育大学とのリーグ戦で実施した。試合中に目視で確認した内容と試合後に記録映像にて次の項目について確認した。
1.試合中における実際のプレー時間
2.そのボール占有率
3.ラインアウトの成功率
4.個人別タックルの有効性
5.個人別反則の数とその内容
などを調査した。

【結果】
プレー時間は合計80分の試合時間で実際のプレー時間は39分32秒であった。前半21分30秒、後半18分02秒と前半より後半の方がプレー時間は短かった。ボール占有率も前半は62%であったが後半は40%と後半に占有率が下がった。またラインアウトでも前半と比して後半に成功率が下がった。チーム全体としては後半に全身的持久力の低下が顕在化し、それによりセットプレーなどの正確性が低下したものと考えられる。個別の反則数をみてもまだまだノックオンする者が7名と多く、加えて効果的と考えられるタックルは全タックル71回のうち7回と10%にも満たない状況であった。これらの分析からチームとしてリーグ戦初戦に臨むにあたって十分仕上げてきたとは言えない状態であったのはないかと考えられる結果であった。
これらの結果を監督、主将などに報告することで試合後のチーム分析に貢献できたのではないかと考える。

【考察】
これまでチームマネージャーがこのような分析を実行したことはなかったが、少しでもチーム力向上のために役立ちたいという思いで分析を行った。このような取り組みは上位リーグでは当たり前のことであるかもしれないがDリーグにおいてはほとんど行われていない。チームマネージャーは選手の準備補佐役がその役割の大半であるのではと思う。マネージャーはそれ以外にこのようなチーム力の分析、体力強化、メンタルトレーニングなど様々な分野に積極的に取り組むことでチームにプラスの影響を与えるとともにマネージャーにも新たなやりがいを提供してチーム全体を一体化させることに貢献できるのではないかと考える。今後ともこのような試合内容の分析力の向上を図るとともにルールの精通、女子レフフリーへの挑戦など様々な知見に習得に精進していく考えである。

ラグビーのまち東大阪の歴史

王鞍日向(関西大学文学部)

キーワード:東大阪市役所、地域、普及活動

[はじめに]
ラグビーが日本に初めて紹介されたのは、1899(明治32)年、慶應義塾大学のある東京だとされている。関西に移入してくるのは11年後の京都で、大阪に広がるのはさらに9年後の1919(大正8)年といわれている。大阪は東京に20年遅れてのスタートであるにも関わらず、これほど盛んになったことは注目すべき点である。
 しかし、ラグビーの普及に関する研究で、地域との関連がみられるものがあまり行われていない。技術論や、けがの防止策についての研究がほとんどであるため、どのような普及の歴史があったのか、見当がつかなかった。
そこで筆者は、ラグビーのまちと呼ばれている東大阪市を対象に調べることにした。花園ラグビー場がある東大阪市は、他の地域と大きな差異があると考えたからである。

[方法]
 2010(平成22)年に東大阪市役所内に設置された、ラグビーワールドカップ誘致室の室次長である本園康成さんにお話を伺った。また、東大阪市立英田中学校ラグビー部の山地英之先生にもお話を聞くことができ、練習の様子を見学させていただいた。

[結果]
 ラグビーのまちを表明した1991(平成3)年以降と,ラグビーワールドカップ日本大会が決定した2009(平成21)年以降と,大きく2つの転機があったと判明した。
 1991年に東大阪市が「ラグビーのまち」であることを表明し、力強さや団結力がイメージできるラグビーを前面にだして政策を進めていくことを決めた。1992(平成4)年には,現在のマスコットキャラクターであるトライくんが誕生した。また同時期から,マンホールや水道仕切弁のデザインにラグビーの絵が施され、ラグビーのまちらしさを感じることができる。
 2009年には、2019年のラグビーワールドカップが日本で開催すると決定し、翌年に東大阪市は開催誘致のために誘致室を設置した。市民への認識度向上と開催誘致を盛り上げるため、ラガーシャツやポロシャツの製作、原動機付自転車などのオリジナルナンバープレートの交付、花園ラグビー場周辺でのお祭りなど、様々な視点からラグビーの普及活動にまい進されていることが明らかになった。
 また、元日本代表で現京都産業大学ラグビー部コーチの元木由記雄氏や近鉄ライナーズキャプテンの豊田大樹らを輩出した英田中学校では、少なくとも7年前から英田幼稚園とラグビーを通じて交流している。年に2回行われるその交流はトライデーと呼ばれ、園児には楽しみな行事のひとつとなっている。この交流には行政などは一切関わりがなく、英田幼稚園のほうから声をかけたという。同じ校区内という地域のつながりによって実現できる交流は、とても貴重なものであると考えられる。
[おわりに]

 市民や子ども達へのラグビーの普及活動を継続し、野球やサッカーに劣らぬ魅力があることを伝えるために、地域の頑張りが不可欠だと感じた。

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