子どものサッカー・ラグビーについて

桑田 大輔(生駒少年ラグビークラブ)
相対的年齢効果、競技開始年齢、対象の把握 
【目的】
日頃、子ども達のサッカー・ラグビー育成現場を、観察し、感じた事を、データ化、アウトプットしてきた。指導者に必要な要素として「情熱」「対象の把握」「累進的なトレーニングメニューの作成」「できれば経験者である方がよい」とある。指導者であれば、誰もが多かれ少なかれ「情熱」を持っている
しかし、「対象の把握」となると、指導者は、天性の第六感か、スポーツ科学に頼るしかなくなるのだが、圧倒的に前者が多い。その為、子どもの累進的な成長に符合した、トレーニングができず、素質に応じた成長を遂げさせられない
身体的・精神的に素質のある子ども達を、育成することが、競技スポーツの強化に繋がる。その為には、累進的な成長に符合した、育成システム・大会ガイドラインの構築が、子ども達の育成年代に必要だと考えた

【方法】
各スポーツ団体・その他のトップアスリートの生まれ月を集計する。その時に、外国選手を除く・人口動態統計・日数割合も考慮した実数に近い月別出生数表を作成する。多数の月別出生数表、各年代のスポーツ競技人口の推移と競技開始年齢・ポジションと、幼児~小学6年生、約300人のアンケート調査との整合性を参照する

【結果】
Aスポーツは、4~6月生まれ(春生まれ)のトップアスリートの人数が多く、1~3月生まれ(早生まれ・冬生まれ)に、少ない相対的年齢効果がある
例えば、Aスポーツの春生まれと早生まれ(9ヶ月の月齢差・成長差)のトップアスリートの割合が、3:1とする。子ども達の成長差(表➀参照)を、約6年と考えると、春生まれの早熟児と晩熟児(72ヶ月の成長差)では、24:1となる。更に、春生まれの早熟児と早生まれの晩熟児では、上記の割合から、72:1となる(表➁参照)
トップアスリートになれる身体的・精神的な素質があるのに、月齢差や成長差によって72倍の差が発生する。これはトップ選手が600人いた場合、身体的・精神的に素質があってトップアスリートになる可能性のある選手は、20人以下ということだ
次に、Bスポーツは、小学生以下の年代から競技開始しても、中学生・高校生から始めても、トップ選手になれる。先天的な要因の割合が多いことで、構成される競技スポーツだ

(表1)

(表2)

【考察】
日本の多くの競技スポーツの育成システムによる大人の指導が、精神的に頑張れない子ども達を生み出す。多くの子ども達の素質は、ほとんど目に見えないまま、埋没している。子ども達が、素質を発揮できる、育成システム・大会ガイドラインの構築が必要だ

東海学生ラグビー連盟における競技力向上に向けた取り組み

-2年目の検証-

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)、岡本昌也(愛知工業大学)、高田正義(愛知学院大学)
中村 司(名城大学)、篠田雅之(東海学園大学)、村瀬賢治(名古屋経済大学)、中本光彦(中京大学)、
小澤良太(愛知学院大学)

キーワード:リーグ再編、プレイオフ制、実力格差、2年目
【目 的】
東海学生ラグビー連盟では、2009年度リーグ戦よりAリーグをA1、A2の2部制とし、それぞれ6チームによる一次リーグを実施し、その対戦結果によるプレイオフ制を導入した。そしてプレイオフの結果により、全国大学選手権大会および全国地区対抗大学大会への出場校の決定、A1-A2リーグ間の入替、A2-Bリーグ間の入替を行った。このリーグ再編の趣旨は、ミスマッチを減らし、接戦のゲームをできるだけ多くすることによりリーグ全体の競技力向上をはかることである。改革初年度のリーグ戦結果では、一次リーグで大きな得点差がついた対戦も多少みられたものの、プレイオフでは大多数のゲームにおいて接戦となり、また最終順位が一次リーグと異なる結果になるなど、当初の想定範囲を超える成果がみられた。このことについては昨年の第3回ラグビー学会にて報告している。そこで今回は2シーズン目のリーグ戦結果をもとに、あらためてリーグ再編の成果を検証することとした。

【方 法】
 一次リーグ、二次リーグそれぞれにおけるリーグ戦順位の上位チームと下位チームの試合内容に着目し、その得失点差を分析することにより、ゲーム内容(ゲームの質)を検証する。そして前年度との比較により、この制度の有効性を検証する。

【結果と考察】
(1) 2010年度リーグ戦結果
A1一次リーグの結果は以下のとおりであった。1位:朝日大、2位:名城大、3位:中京大、4位:愛学大、5位:愛工大、6位:名学大。また一次リーグの上位2チームと下位2チームの1試合ごとの平均得失点差はそれぞれ32点、-39点であった。
A2一次リーグの結果は以下のとおりであった。1位:中部大、2位:名商大、3位:愛教大、4位:淑徳大、5位:名大、6位:南山大。また一次リーグの上位2チームと下位2チームの1試合ごとの平均得失点差はそれぞれ27点、-35点であった。
プレイオフの結果は以下のとおりであった。
決勝リーグは、1位:朝日大、2位:中京大、3位:名城大、  4位:愛学大。また1位チームと4位チームの1試合ごとの平均得失点差はそれぞれ13点、-19点であった。
A1-A2入替リーグは、1位:愛工大、2位:中部大、3位:名学大、4位:名商大。また1位チームと4位チームの1試合ごとの平均得失点差はそれぞれ43点、-32点であった。
A2順位決定リーグは、1位:愛教大、2位:名大、3位:南山大、4位:淑徳大。また1位チームと4位チームの1試合ごとの平均得失点差はそれぞれ3点、-11点であった。
(2) 前年度との比較  ※(   )内は2010年度
 2009年度リーグ戦では、A1リーグの一次リーグの結果では、上位2チームの1試合ごとの平均得失点差は40点(32点)、下位2チームでは-58点(-39点)だった。A2リーグの一次リーグの結果では、上位2チームの1試合ごとの平均得失点差は33点(27点)、下位2チームでは-34点(-35点)だった。またプレイオフにおける1位チームと4位チームの1試合ごとの平均得失点差は、決勝リーグがそれぞれ21点(13点)、-20点(-19点)、A1-A2入替リーグがそれぞれ32点(43点)、-22点(-32点)、A2順位決定リーグでそれぞれ23点(3点)、-24点(-11点)であった。
  以上(1)、(2)の結果からみると、A1-A2入替リーグにおいて前年度より1試合ごとの平均得失点差が大きくなっているのを除いて、各リーグの上位チームと下位チーム間の実力差が縮まっている傾向が見られる。特にA2順位決定リーグではほとんどのゲームが僅差となっており、リーグ改編のきっかけの一つであったAリーグ残留を視野においたチーム戦略は成り立たないことが示された。さらにA2-Bリーグ間の入替戦でもBリーグ2位チームが勝利するなどリーグ全体の活性化が進んでいるといえよう。

【まとめ】
リーグを再編して2シーズン実施したところ、東海学生ラグビーリーグ全体の活性化は着実に進んでいるという実感を持った。ただAリーグ優勝校の全国大学選手権大会への出場という最大の目標にはまだ至っていないことやBリーグ下位やCリーグの弱体化など今後の課題も多く残っている。

「安全に楽しく」エンジョイレフリング考察

鈴木 道男 (どんぐりラグビークラブ)

キーワード  レフリング、安全、エンジョイラグビー、生涯スポーツ

【緒言】
激しいコンタクトプレーのあるラグビーを生涯スポーツとして普及させるためには、「安全」かつ「楽しく」という理念が大切である。またゲームを進行するためには、安全に配慮した芝生のグランド設備はもちろんだが、対戦チームアレンジ、レフリング運用の技術面を充実させなければならない。筆者のレフリング経験をもとに、「エンジョイレフリング」について提案する。

【目的】
エンジョイレフリングとは、幅広い年齢構成、いろいろなスキルの選手で構成されたチームが、勝敗よりもプレー、ラグビーのエッセンスそのものを楽しむことをサポートするレフリング技術である。「安全に楽しく」というコンセプトのゲームをコントロールするのは、「エンジョイレフリング」である。これに対してラグビー協会などが主催する大会、リーグ戦などのゲームで、同じ年齢構成、スキル、経験レベルのチーム同士が競技として勝敗を争うものはコンテストラグビーと位置づけされ、レフリングは競技規則を厳密に運用する「コンテストレフリング」として区別される。エンジョイレフリングを理解し、円滑な運用技術を研究し普及させることは、新たなラグビーファンを獲得し、生涯スポーツ発展に大きく寄与するものである。

【方法】
どんぐりラグビークラブ主催「関西シニアラグビーフェスティバル」シニアゲーム、クラブチーム交流試合、その他、レフリー担当などで適用した。

《ゲームの目的設定》
最初にゲームコンセプトがエンジョイラグビーかコンテストラグビーか、参加者に対して明確にしておくことが大切である。
《対戦アレンジ》
事前調整、確認は、重要である。年令の調整 出来るだけ年齢を合わせる。筋力パワーなどは維持できても、反射神経、反応速度などは加齢とともに鈍化する。キックオフから5分程度で対戦チームのレベルを判断、ゲーム中も選手の動きの観察を続けていく。レベルに差があり、進行がワンサイドゲームとなる場合は、劣勢側のモチベーションが下がり、最終的には双方が楽しむことは出来ない。レフリングのゲームコントロールによってノーサイドまで両者ともモチベーションを維持する必要がある。選手とのコミュニケーション、判定が微妙な場面でのルール適用吹き分けなどで試合コントロールする。

  • (モチベーション) 笛、コールは穏やかに行い、試合中に選手の足が止まらないように配慮する。
  • (スクラム) 場合によりノンコンテストを推奨、ノープッシュなど柔軟に適用、安全に配慮し、体力を温存しながらゲームを楽しむ
  • (ラック・モール) 無用なオフサイド、倒れ込み、などの反則を防止するために整理を早く行う。
  • (ラインオフサイド) 瞬発力のある若い選手の飛び出すディフェンスを制限、コントロールする。
  • (アドバンテージ) スキルの高い選手、若いチームのアドバンテージルール適用を制限する。
  • (グレーゾーンの判定) どちらの側の反則かわからないグレーゾーンの判定時のペナルティなど適用は、モチベーションの落ちたほうに有利に判定して、最後までゲームを盛り上げる。
  • (トライ) どちらか一方が、ノートライとなるピリオドがないようにコントロールすることを推奨する。 試合後のレセプションを盛り上げるための演出である。
  • (ゲームピリオド) それぞれ一試合と考えるレフリングをする。選手編成は一期一会、その1ピリオドだけ出場という場合もあるので、すべてのピリオドごとでゲームが完結することを目指す。集中力を維持するためには、15分程度のショートピリオド進行を推奨する。

【結果と考察】
年齢やレベルに差があるゲームにエンジョイレフリングを適用することで、最後までゲームを楽しむことができた。コントロールするレフリーは、選手のゲーム心理を読みながらリードする。これはセンスと豊かな経験が必要であり、これらをアドバイスできるレフリーコーチを養成する。参加者がゲーム中に、エンジョイレフリングを意識することにより、ラグビーがより安全で、より楽しいゲーム進行が可能となる。

【まとめ】
エンジョイレフリングのゲームコントロールは、「安全に楽しく」エンジョイラグビーを盛り上げるのには必須である。ノウハウを蓄積し、公開し、普及することは、ラグビーを楽しむオプションを増やし、生涯スポーツとして新たな参加者を呼び込める効果がある。選手構成などギャップのあるゲームにエンジョイレフリングを適用すると、ゲームが盛り上がり、生涯スポーツとして高い満足感が得られ、参加選手や観衆も一緒に楽しむことができる。

より安全なスポーツを目指して

中村周平(立命館大学大学院生) 桂充弘(弁護士)

キーワード:「スポーツ事故」「再発防止」

【目的】
毎日楕円球を追っかけ、普通の学校生活を送っていた高校2年の秋、ラグビーの練習中の事故で首の骨を骨折し、「頚髄損傷」という障害を負った。
その事故を境に、ご飯を食べる、風呂に入るなど、これまで自分一人でしていたこと、生きていく上で「当たり前」のことを誰かに頼まなくてはならない生活を余儀なくされた。
今回の発表では、事故当事者・家族の「今」を知っていただく一方で、現在ラグビーというスポーツが抱えている現状・課題から「事故後の原因究明」「再発防止策」の必要性を考えていきたいと思う。

【考察】
日本国内のラグビー事故において、過去20年間(1989~2008)で360件、年間平均20件近くもの重症事故が起きている。にもかかわらず、現在おこなわれている事故についての報告は事故直後(3日以内)、1ヶ月後までしかなく、その後の事故当事者の様子が把握されていない。また、事故直後は、これからの生活やリハビリについて多くの悩みを抱えている。しかしながら、事故当事者についての情報公開がされていないため、同じ障害を負った方との連絡が取れず、事故当事者家族が情報から孤立してしまう状況がある。さらに、事故当事者として、自身の事故に対して充分な「事故後の原因究明」とそれに基づく「再発防止策」の検討がなされていないのではないかという強い思いがある。加えて、実際に事故が起きた際の補償についても問題がある。
教育上の事故でも、スポーツ振興センターの見舞金のみ、裁判で過失が認められなければ補償されない現状がある。
ラグビーというスポーツの特性上、事故を0にすることは難しい。であるなら、事故を「悲劇」で終わらせず、二度と同じような事故を繰り返さない、次に活かすということを考えてほしい。
事故を限りなく0に近づけていく取り組みが必要であると考える。そのためには充分な「原因究明」とそれに基づく確かな「再発防止策」が必要不可欠ではないか。なぜなら、「再発防止」という観点から、芝生等の環境整備、ルールの整備の必要性や妥当性をより明らかにできるからである。また、事故が起きた後の補償を確立していくことは「スポーツ事故」におけるセーフティネットの役割を果たしてくれると考える。
しかし、司法の場にて「過失」が認められなければならない今の補償のあり方では、スポーツにおいて加害者・被害者の関係だけが浮き彫りになり、再発防止とはかけ離れた部分で議論がなされてしまう。そして、その後に大きな遺恨を残す。
加害者を作り出さない「無過失補償」、また「スポーツ安全協会」など社会資源を活用していくことも有効な手段ではないか。そして、最終的にこれらの情報を一般に公表し、「今ラグビーが抱えている現状」を「今ラグビーに打ち込んでいる指導者、そして何より選手たち」が把握できること、知ってもらうことが重要である。
彼らこそ、事故と常に隣り合わせている存在であるからだ。

【まとめ】
確かに事故は自分や家族の生活を変えてしまった、一瞬の間に起きた「悲劇」だった。ただ、私自身は今でもラグビーを愛してやまない。試合を見ていると胸に熱いものがこみ上げてくる。
そのラグビーで年間約20件もの重傷事故が起き続けている事実もまた、「悲劇」であると考える。
この発表を通して私は、「ラグビーは危ない!事故に遭うとこんな不幸になる!!」ということを伝えたいのではなく、安全推進本部の発足や安全推進講習会の義務化などをされてきた心ある多くの方々と共に、ラグビーがより安全なスポーツになっていくことを考えていきたい。

ROOKIESから学ぶこれからのスポーツ指導

-熱血教師が実践した5つの方法-

村田トオル(関西大学) 灘英世(関西大学) 溝畑寛治(関西大学)

キーワード:スポーツ指導,スポーツマンシップ,人間形成,社会性,教育効果

【はじめに】
ROOKIESは,反社会的行動を繰り返していた不良たちが野球を通じて立ち直るというドラマである。著者はこのことは行動変容理論に通じるものという仮説を立て,その視点からドラマを視聴した。また教師に対しかたくなに心を閉ざしていた生徒たちが徐々にその心を開いていく過程には,野球を通じて生徒ひとり一人への教育的配慮がなされているのではないかという思いを抱いていた。本稿では,ROOKIESからスポーツ指導について学び,今日スポーツ界が抱えている問題解決の糸口となればと考える。

【具体的な取り組み】
①生徒を心から信じた
 成果をあげるために,教師が生徒を信じぬくことをピグマリオン効果という。ドラマでは周囲から喫煙を疑われたシーンでも「吸ってない!」という生徒の言葉を一点の曇りもなく信じたばかりではなく防波堤となった。
②ほかの生徒と比べなかった
今日では「他者と比べて優劣をつける」を基準に置く評価傾向にある。このような評価基準では劣等感を抱く生徒を生みだすという可能性がある。他者と比べず,生徒の例えわずかひとつの長所であろうが認めると,有能感という感情が芽生える。ドラマでは対戦チームの監督に「生徒の名前が入ったユニフォームを手に取り,長所をきちんと話している」というシーンがあった。
③答えを生徒に託した
 指導方法の傾向として,自分の目の前の生徒を動かそうとして頭ごなしの命令形,否定形の言葉がけをしがちであるが,これではやる気を引き出すことにはつながらない。ドラマでは最後のひとりに対し「迷ってもいい,答えが出るまで待つ」という内発的動機に期待する姿勢があった。
④行動目標を明確にした
 目標とは具体的にどう行動すべきかを示す指標である。ドラマでは「甲子園出場」を掲げ,周囲の失笑を買ったが
実は,生徒のとてつもなく高い承認欲求を満足させるものであった。
⑤いっしょに取り組んだ
 教師と生徒では絶対的服従関係になりがちであるが,生徒が求める教師像とは「友好的な教師」である。ドラマではグランドの草むしりから始まり,練習では率先して走るなど生徒と目線を同じにした。

【結果】
 献身的な5つの具体的な方法によって,生徒たちは「喧嘩,喫煙をやめる」「迷惑をかけた先輩に謝る」「放課後を待ち構えていたかのように嬉々としてグランドへ走って行く」「上手くなるために練習方法を工夫する」「勝利に向かってチーム一丸となる」「川藤に対し明らかな信頼を抱く」という行動の変容がみられた。
 
【結論】
 スポーツ指導とは,選手ひとり一人の個性を引き伸ばし,それが最大限に発揮された結果として競技力向上や勝利に結びつくものであろう。一方,選手にとってはスポーツ特有の競争という要素を通じ,達成感というその時点での強い自己充実から自己の高みを目指してさらに努力を行うのである。その過程は,生きがいとも換言される「今を確かに生きている」感覚とともに,プレーを通じて健全な社会生活につながる他者理解を学んでいる。すなわち,スポーツ指導とは単にスポーツ能力遂行能力開発ではなくスポーツマンシップを通じての「人間形成」なのである。 

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