20世紀初頭の米国におけるラグビーの衰退とアメリカンフットボールへの転換

大西 好宣 (千葉大学)

キーワード: アメリカ合衆国、ラグビー史、大学ラグビー、アメリカンフットボール

1. はじめに
現在、米国で隆盛を極めるアメリカンフットボールが、どのような経緯で同国一の人気スポーツとなったのかについて、わが国では殆んど知られていない。本発表では、米国におけるアメリカンフットボールがいつどのような理由で人気を獲得し始めたのか、15人制ラグビー(いわゆるユニオン)の衰退の歴史的経緯と関連づけながら紹介したい。

2. 米国におけるラグビーの受容と隆盛
米国初のラグビーチームは、1872年、ハーバード大学において誕生した。もっとも、当時同大でプレーされていたのは、あくまでラグビーに近いフットボールという程度のものであった。転機となったのは、1874年5月、はるばる隣国カナダから訪れたマクギル大学との対抗戦である。この時、正式なラグビーのルールがマ大によってもたらされた。その後、同じ東海岸の3大学を巻き込み、ハ大が中心となって国内の大学対抗リーグ戦が発足、これが現在のアイビーリーグの礎石となる。1890年代、ラグビーは隆盛を極め、毎年11月には事実上の全米選手権とも言える大学同士の感謝祭ゲームが人気を博した。

3. アメリカンフットボールの誕生
アメリカンフットボールの基礎を築いたのは、ウォルター・キャンプという元ラグビー選手である。上で紹介した感謝祭ゲームの第1回に、イェール大学の選手として出場していた。
彼の目に映った当時のラグビーは、多くの点でルールが曖昧で物足りなかった。そこで1882年、1)スクラムを簡略にし、2)攻撃側選手が守備側のタックルを適法に妨害出来るようにし、さらには3)ダウン(野球でいうアウト)という概念を導入することで、試合のスピード感を高めることに成功した。

4. ラグビー衰退に関する経緯
19世紀末には、アメリカンフットボールのプロリーグが誕生し、卒業後の大学スター選手を獲得することで人気を集めた。他方、1913年、史上最強と謳われた米国代表ラグビーチームはNZに3-51とホームで大敗、ファンを大いに失望させた。
その後、勢力を盛り返した米国代表ラグビーチームはオリンピックに4度出場。そのうち、1920年、1924年は金メダルを手中に収めた。再び国内での人気が高まるかと期待された矢先、ラグビーはオリンピック種目から消え、人々の関心は薄れた。

5. 現代への教訓
同じ英国発祥のスポーツであるクリケットも、ほぼ同時期の米国においてラグビーと共に人気を博したものの、プロ化の波に乗り遅れたことから野球に取って代わられ、同じ衰退の経緯を辿っている。
実はこの点は、現代の日本にも通じるものがある。すなわち、1995年のラグビーW杯において、日本はNZに17-145と大敗を喫し、そのことが現在のラグビー人気の衰退を招いたと言われたが、より根本的な原因は当時の世界のプロ化の波に乗り遅れたことだったのではないか。

日本ラグビー学会第11回大会のご案内

日本ラグビー学会第11回大会を下記のとおり開催いたします。

■期日:2018年3月24日(土)10:00~17:00(開始終了時刻は予定)

■会場:関西大学 堺キャンパス
■アクセス:南海高野線「浅香山」駅下車、徒歩約1分

■講演:「発育発達からみたラグビー指導について」(案)

■一般演題募集:ラグビーに関する演題

抄録原稿はWordで作成し、1)演題 2)演者(発表者に○印) 3)所属 
4)キーワード 5)本文(目的、方法、結果及び考察の順)をA4用紙1頁以内、本文は2段組み(図・表含む)で記載のうえ、下記E-mailに送付して下さい。

※抄録原稿の詳細な形式は過去の学会大会の抄録集(Supplement)に準ますので、文字の大きさやスタイル等の具体例はそちらをご参照ください。
※演者並びに共同研究者は、正会員または臨時会員でなければなりません。

正会員の入会手続きは、日本ラグビー学会HPからお願い致します。

○一般演題締め切り期日:2018年1月31日(水)
E-mail :smori@kansai-u.ac.jp 森 仁志 宛
また、本学会誌への研究論文の投稿も募集致します。
書式は過去の学会誌の形式に準じますのでご参照のうえ、原稿は下記E-mailに送付して下さい。
○投稿論文締め切り期日:2018年1月 31日(水)
E-mail :hishiza@naramed-u.ac.jp 石指 宏通 宛

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ラグビーフォーラムNo.10

ラグビーフォーラムNo.10(2017年3月発行)

JAPAN RESEARCH JOURNAL OF RUGBY FORUM No.10 (March 2017)


【原著論文】

大学ラグビー選手における線形ピリオダイゼーションの準備期・筋肥大段階

12週間のトレーニングプログラムが体格、筋力・パワー、スプリント、アジリティおよびジャンプ能力に与える効果
河野儀久(環太平洋大学)

脳振盪-全国高等学校ラグビーフットボール・花園大会に於ける30年間の変遷-

外山幸正(とやま整形外科クリニック)

2015年ラグビーワールドカップにおけるスクラム様相に関する研究

鷲谷浩輔(千葉商科大学)、木内誠(順天堂大学)

ラグビー競技の戦略的なパントキックに関する基礎的研究

-ラグビーワールドカップ2015上位4カ国を対象として-
吉田明(日本大学)、大嶽真人(日本大学)、橋口泰一(日本大学)、
坂本宗司(日本大学)、小圷昭仁(防衛大学)

失トライ数による7人制ラグビーのタックル様相の相違

-日本代表に着目して-
木内誠(順天堂大学)、鷲谷浩輔(千葉商科大学)、八百則和(東海大学)、
林莉奈(順天堂大学)、廣津信義(順天堂大学)

アメリカのラグビーを考えるために:研究のための序章

大西好宣(千葉大学)

【報告】

創部50周年記念ニュージーランド遠征報告

榎本孝二(大阪府立千里高等学校)

(氏名:敬称略)

日本ラグビー学会誌 「ラグビーフォーラム」No10
平成29年3月25日 印刷発行 非売品
発行者   日本ラグビー学会 会長     溝畑寛治
発行所   〒564-8680
      大阪府吹田市山手町3-3-35
      関西大学 千里山キャンパス 中央体育館
      日本ラグビー学会事務局
      http://www.jsr.gr.jp/
印刷所   〒550-0002
      大阪市西区江戸堀2-1-13
      あさひ高速印刷株式会社
      TEL:06-6448-7521(代) FAX:06-6371-2303
      http://www.ag-media.jp/

「ラグビーの怪我防止と選手寿命」

―ラグビーを楽しむために―

鈴木道男 (どんぐりラグビークラブ)
キーワード: 怪我予防 リスクマネジメント 安全 生涯スポーツ 選手寿命

【目的】
日本全国で行われているラグビー、激しいコンタクトプレーが伴うゲームでは、大きな怪我をすることが直接引退、選手寿命を縮めることにつながる。ラグビー参加者を増やし、いつまでもゲームを楽しむために、練習やゲームなどで怪我をしない安全性が不可欠である。 怪我の防止対策について、大怪我が選手寿命に直接的に関わるシニアラグビーのカテゴリーに焦点をあてて考察する。

【方法】
シニアクラスカテゴリーについて、 日本ラグビー協会や、調査した診療機関にも怪我、傷害の統計記録はない。どんぐりラグビークラブの活動、自身の49年間のプレーヤー、レフリーとしてのすべてのカテゴリーの活動経験から、ラグビーの好ましい環境、プレーヤーの特性、有効な防止策の考察をした。・・  ○怪我の発生起因として考慮が必要なファクターから、プレー環境、ゲームアレンジ、チームの準備、選手個人の対策などを分析する。・・

【結果・考察】
最適なゲーム環境として 全面芝生グラウンドは、競技のリスクを軽減し安全を保全する。選手はキックオフの前に下見をして、ゴールポストやインゴールの状態も含めグラウンドすべての状態を確認する。
(ゲームアレンジ) ゲームマネジメントは、チームの選手構成に合わせた対戦相手の設定、ゲームコンセプトの共通認識などが基本的安全要素である。参加するすべての選手と担当するレフリーは、双方チームの特徴、年齢構成、スキルレベルを把握する。ゲームプランを確認し、コンセプト共有を徹底する。
(選手個人の要因) 選手の怪我発生リスクは、常に客観的なファクター分析が必要である。
①自分を知る⇒自身の競技レベル、スキル、体調コンディション、経験値、
②相手を知る⇒選手の年齢差、スキル格差 エンジョイゲームかコンテストゲームか確認
(怪我が予想されるリスクを把握)
■長期的視点⇒加齢による老化、反応速度 反射神経などの低下に注意する。
■短期的視点⇒日々の体調の変化、関節の可動域、筋力、集中力を知る。
■最適なスタイル⇒ヘッドギア、マウスピース、ショルダーガード、テーピング、ウェア、スパイク、手入れと安全確認を徹底する。
(準備と対応)
①十分な準備運動・ストレッチ  試合前にチーム単位で行うことが多いが、自分自身で自分の身体と対話することが必要である。いつもと違和感がないか、関節可動域の変化はないか、チーム全体メニューと別のプライベートメニューで進める柔軟性も取り入れる。自分自身が自分の身体と対話する時間を持つ。
②ウォーミングアップ 実際のランニング、基本動作など確認しながら「ひと汗」をかくことで、持久力、瞬発力など筋肉動作確認をする。
③確実なテーピング 古傷や痛めている部位には予めテーピングで保護する。
④ゲームに出場しても、確実なプレーのみ行い、不安があるときは無理をしない。
⑤クールダウン ダメージから確実な回復を目指し、次回ゲームに備える。
(ゲーム中の対応)
①選手自身と双方のチームの状態把握
②開始直後とピリオド終了前が要注意時間帯③小さな怪我の放置は、次の大きなダメージの怪我につながるので、確実に処置をする。

【まとめ】
怪我の手当てより予防意識、主催者やリーダーは安全対策を講じることは必須だが、怪我をするのは選手個人である。
「怪我が発生する前提での応急処置、準備」の前に、あわせて「怪我を予防する意識」が大切である。
選手、レフリーそれぞれがラグビー競技のリスクを把握することで、安全にコンタクトプレーを楽しむことができる。
ラグビーの怪我を予防することは、選手寿命を確実に延伸でき、「安全に楽しく」生涯スポーツとしての位置づけが明確になる。
■あらゆる世代が楽しめることで、ラグビーの価値がさらに認識され、「生きがいの提供」として社会に大きな貢献ができる。

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