グリーンカード導入に関するアンケートから

〇西村克美(嵯峨野高校) 星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(神戸居留地研究会)
キーワード:グリーンカード、フェアプレーの精神、ブランド性

1. 目的:筆者らは、現在のラグビーが勝敗にこだわり過ぎており、本来ラグビーの持つすばらしい思想・哲学がプレーヤーに伝わらず、観客も含めラグビーのブランド性を理解しないままプレーし、携わっているのではないかと思う。そして我われは、この現状を危惧している。今回はサッカーで利用されているグリーンカードにスポットを当て、ラグビーへの導入やフェアプレー、マナー等に関して考察した。

2. 調査方法:調査表(別紙:発表時配布)を作成・配布し、大学生431名、スクール指導者62名、中学校指導者22名、高校指導者71名、大学指導者11名、レフリー14名、その他72名、計683名から回答を得た。

3. 結果:グリーンカードとは、日本サッカー協会がU-12の大会を対象に、フェアプレーを推進するため導入しているカードである。試合中、フェアプレー精神を発揮した選手やチームに対して、レフリーがグリーンカードを提示する、ということを行っている。ラグビーでは採用されていない。
今回の調査によって、ラグビー界ではグリーンカードの認知度が低いことが分かった(32.2%)。しかしながら、グリーンカードの導入には肯定的な意見が多い(44.0%)。一方、導入に否定的な意見としては、プレーヤーも指導者も「ラグビーではフェアプレーは当たり前」ゆえに必要ない、という意見が多く見られる(28.2%)。また、どのようなタイミングでカードを提示するのか、難しいという意見も多かった(31.6%)。
最後の第4項目で、筆者らが危惧している事に関連して、ラグビー界の現状を質問している。「レフリーに文句を言う選手が増加した(33.8%)」、「マナーの悪い観客が増加した(31.1%)」、「ペナルティー時に態度の悪い選手が増加した(30.1%)」。以上、3つの項目に対して特に多くの回答がなされた。(複数回答)

4. 考察:上述したように、プレーヤーも指導者も「ラグビーではフェアプレーは当たり前」ゆえに導入不要という意見も多く、プレーヤー・指導者ともにフェアプレー精神を大切にしていることが分かる。
最後の4.「ラグビー界の現状」に対する回答では、現状を心配する意見が多い。回答数の多い項目につてレフリーと選手で比較した。⑥ペナルティー時の態度の悪さ(選手29.0%:レフリー42.9%、以下同様)、⑦クイックプレーの妨害(23.6%:35.7%)、⑧レフリーへの文句(33.6%:42.9%)、⑩トライ後のマナーの悪さ(18.4%:35.7%)。以上、レフリーの方が高い回答率を示す4つの項目。これらの数字は、ラグビーの思想やマナーに反する行為が増えていることを明示している。この様な現状への認識が、グリーンカード導入を肯定する背景にあるのではないだろうか。

終わりに:スポーツにおいては、フェアプレーは当たり前である。特に激しく身体を当て合うラグビーでは、フェアーな行為をフェアーと明確に認め・褒めるシステムも必要ではないだろうか。特にスクール・小学生など初心者に、
フェアプレー精神を身に着けさせるのにグリーンカードは、大いに有効であると考えられる。
負傷時、かつて当たり前だった敵味方の区別なく、選手を気遣い・寄り添う主将の姿。残念ながらセーフティー・アシスタント制の導入によって、見かけなくなってしまった。また、観客の良きマナーも復活したいものである。例えば、素晴らしいプレーに対する敵味方のない拍手、ゴールキック時の静寂など。これらも、ラグビーのブランド性を示す行為である。ラグビー場に、再びかつての雰囲気を取り戻したいと思うのは、筆者らだけではあるまい。

20世紀初頭の米国におけるラグビーの衰退とアメリカンフットボールへの転換

大西 好宣 (千葉大学)

キーワード: アメリカ合衆国、ラグビー史、大学ラグビー、アメリカンフットボール

1. はじめに
現在、米国で隆盛を極めるアメリカンフットボールが、どのような経緯で同国一の人気スポーツとなったのかについて、わが国では殆んど知られていない。本発表では、米国におけるアメリカンフットボールがいつどのような理由で人気を獲得し始めたのか、15人制ラグビー(いわゆるユニオン)の衰退の歴史的経緯と関連づけながら紹介したい。

2. 米国におけるラグビーの受容と隆盛
米国初のラグビーチームは、1872年、ハーバード大学において誕生した。もっとも、当時同大でプレーされていたのは、あくまでラグビーに近いフットボールという程度のものであった。転機となったのは、1874年5月、はるばる隣国カナダから訪れたマクギル大学との対抗戦である。この時、正式なラグビーのルールがマ大によってもたらされた。その後、同じ東海岸の3大学を巻き込み、ハ大が中心となって国内の大学対抗リーグ戦が発足、これが現在のアイビーリーグの礎石となる。1890年代、ラグビーは隆盛を極め、毎年11月には事実上の全米選手権とも言える大学同士の感謝祭ゲームが人気を博した。

3. アメリカンフットボールの誕生
アメリカンフットボールの基礎を築いたのは、ウォルター・キャンプという元ラグビー選手である。上で紹介した感謝祭ゲームの第1回に、イェール大学の選手として出場していた。
彼の目に映った当時のラグビーは、多くの点でルールが曖昧で物足りなかった。そこで1882年、1)スクラムを簡略にし、2)攻撃側選手が守備側のタックルを適法に妨害出来るようにし、さらには3)ダウン(野球でいうアウト)という概念を導入することで、試合のスピード感を高めることに成功した。

4. ラグビー衰退に関する経緯
19世紀末には、アメリカンフットボールのプロリーグが誕生し、卒業後の大学スター選手を獲得することで人気を集めた。他方、1913年、史上最強と謳われた米国代表ラグビーチームはNZに3-51とホームで大敗、ファンを大いに失望させた。
その後、勢力を盛り返した米国代表ラグビーチームはオリンピックに4度出場。そのうち、1920年、1924年は金メダルを手中に収めた。再び国内での人気が高まるかと期待された矢先、ラグビーはオリンピック種目から消え、人々の関心は薄れた。

5. 現代への教訓
同じ英国発祥のスポーツであるクリケットも、ほぼ同時期の米国においてラグビーと共に人気を博したものの、プロ化の波に乗り遅れたことから野球に取って代わられ、同じ衰退の経緯を辿っている。
実はこの点は、現代の日本にも通じるものがある。すなわち、1995年のラグビーW杯において、日本はNZに17-145と大敗を喫し、そのことが現在のラグビー人気の衰退を招いたと言われたが、より根本的な原因は当時の世界のプロ化の波に乗り遅れたことだったのではないか。

日本ラグビー学会第11回大会のご案内

日本ラグビー学会第11回大会を下記のとおり開催いたします。

■期日:2018年3月24日(土)10:00~17:00(開始終了時刻は予定)

■会場:関西大学 堺キャンパス
■アクセス:南海高野線「浅香山」駅下車、徒歩約1分

■講演:「発育発達からみたラグビー指導について」(案)

■一般演題募集:ラグビーに関する演題

抄録原稿はWordで作成し、1)演題 2)演者(発表者に○印) 3)所属 
4)キーワード 5)本文(目的、方法、結果及び考察の順)をA4用紙1頁以内、本文は2段組み(図・表含む)で記載のうえ、下記E-mailに送付して下さい。

※抄録原稿の詳細な形式は過去の学会大会の抄録集(Supplement)に準ますので、文字の大きさやスタイル等の具体例はそちらをご参照ください。
※演者並びに共同研究者は、正会員または臨時会員でなければなりません。

正会員の入会手続きは、日本ラグビー学会HPからお願い致します。

○一般演題締め切り期日:2018年1月31日(水)
E-mail :smori@kansai-u.ac.jp 森 仁志 宛
また、本学会誌への研究論文の投稿も募集致します。
書式は過去の学会誌の形式に準じますのでご参照のうえ、原稿は下記E-mailに送付して下さい。
○投稿論文締め切り期日:2018年1月 31日(水)
E-mail :hishiza@naramed-u.ac.jp 石指 宏通 宛

【お問合わせ】
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ラグビーフォーラムNo.10

ラグビーフォーラムNo.10(2017年3月発行)

JAPAN RESEARCH JOURNAL OF RUGBY FORUM No.10 (March 2017)


【原著論文】

大学ラグビー選手における線形ピリオダイゼーションの準備期・筋肥大段階

12週間のトレーニングプログラムが体格、筋力・パワー、スプリント、アジリティおよびジャンプ能力に与える効果
河野儀久(環太平洋大学)

脳振盪-全国高等学校ラグビーフットボール・花園大会に於ける30年間の変遷-

外山幸正(とやま整形外科クリニック)

2015年ラグビーワールドカップにおけるスクラム様相に関する研究

鷲谷浩輔(千葉商科大学)、木内誠(順天堂大学)

ラグビー競技の戦略的なパントキックに関する基礎的研究

-ラグビーワールドカップ2015上位4カ国を対象として-
吉田明(日本大学)、大嶽真人(日本大学)、橋口泰一(日本大学)、
坂本宗司(日本大学)、小圷昭仁(防衛大学)

失トライ数による7人制ラグビーのタックル様相の相違

-日本代表に着目して-
木内誠(順天堂大学)、鷲谷浩輔(千葉商科大学)、八百則和(東海大学)、
林莉奈(順天堂大学)、廣津信義(順天堂大学)

アメリカのラグビーを考えるために:研究のための序章

大西好宣(千葉大学)

【報告】

創部50周年記念ニュージーランド遠征報告

榎本孝二(大阪府立千里高等学校)

(氏名:敬称略)

日本ラグビー学会誌 「ラグビーフォーラム」No10
平成29年3月25日 印刷発行 非売品
発行者   日本ラグビー学会 会長     溝畑寛治
発行所   〒564-8680
      大阪府吹田市山手町3-3-35
      関西大学 千里山キャンパス 中央体育館
      日本ラグビー学会事務局
      http://www.jsr.gr.jp/
印刷所   〒550-0002
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