社会人ラグビーフットボール選手のトレーニング期における身体組成の変化と血液性状

○山下千晶、米浪直子(京都女子大学大学院)
キーワード:身体組成、血液性状、トレーニング期

【目的】
本研究では、ラグビーフットボール選手において、シーズンに向けた身体コンディションの向上を図ることを目的として、身体組成の変化と血液性状を併せて検討した。

【方法】
対象者は、トップウエストAリーグに属する社会人ラグビーフットボール選手男性24名(FW: Forwards 10名、BK: Backs 14名)、年齢 24±3 歳とした。12月のシーズン終了時から翌年8月のシーズン直前までの体重、体脂肪率、除脂肪量の測定を行った。8月には血液検査も併せて実施した。なお、12月から2月までは自主トレーニング期間、2月から4月まではウエイトトレーニング強化期間、4月から8月までは練習試合およびフィットネストレーニング強化期間であった。なお、シーズンは9月からであった。

【結果】
12月から8月における身体組成の変化では、FWの体脂肪率において、2月と比較して8月に有意な減少がみられた(p<0.01)。2月から8月における個人の身体組成の変化による分類をTable.1に示した。体脂肪率が減少した者は、21名(FW: 9名, BK: 12名)であり、全対象者の87.5%を占めていた。血液性状については、インスリン分泌能を示すHOMA-βにおいて、FWがBKに対して有意に高値を示し、アルブミン値はBKがFWに対して有意に高値を示した(p<0.05, p<0.01)。また全対象者の血液データにおいて、中性脂肪はHDLコレステロールと有意な負の相関、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)と有意な正の相関を示し(p<0.01, p<0.05)、基準範囲を上回る者は7名みられた。さらにクレアチンキナーゼ(CK)はAST、ALTおよび乳酸脱水素酵素(LD)と有意な正の相関を示し、2月から8月までの体脂肪率の増加量(Δ体脂肪率)と有意な負の相関を認めた(p<0.01, p<0.05, p<0.01, p<0.05)。γ-GTPはALT、ヘモグロビン、ヘマトクリットおよび2月から8月までの体脂肪率の増加量と有意な正の相関を示した(p<0.05, p<0.05, p<0.05, p<0.01)。

【考察】
2月から8月における身体組成の変化において、体脂肪率が減少した者が多く、CKとΔ体脂肪率に負の相関がみられたことから、フィットネストレーニングによるものと考えられた。FWとBKにおける血液性状の比較では、アルブミン値およびHOMA-IR以外の項目に有意差はなく、ポジションによる差は小さいと推察された。一方、全体的に中性脂肪が高い者が多く、中性脂肪はHDLコレステロールと負の相関、HOMA-IRと正の相関を示したことから、身体コンディションの向上には食事指導や栄養管理も必要であることが考えられた。

留学生とラグビーワールドカップ ―2002年大分と2019年岩手の間―

大西 好宣 (千葉大学)

キーワード: ラグビーワールドカップ、コミュニケーション、英語、留学生、地方都市

【はじめに】
 2019年、ラグビーワールドカップ(以下RWC)が日本で開催される。ニュージーランドやオーストラリア、イギリスといった、いわゆる伝統国ではない国では初めての開催という点が、国内外各種のメディアで既に喧伝されている。しかしながら、日本での開催という事実には数少ない非英語圏での開催という別の意味もある。

【発表の目的】
 本発表の目的は2019年、日本で開催されるRWCにおいて、地方都市の受け入れ環境は整っているのかどうか、整っていないとすればどのような方法が考えられるか、について、「英語」というキーワードを手掛かりに考察しながら明らかにすることである。

【先行研究】
 わが国を訪れた外国人観光客に対し、観光庁が2011年に調査を実施しており、日本滞在中に困ったこと、最も困ったことの双方で1位となったのは「無料公衆無線LAN環境」である。
 しかしながら、2位以下に挙げられている3つの項目、すなわち「コミュニケーション」「目的地までの公共交通の経路情報の入手」「公共交通の利用方法(乗り方)、利用料金」は、いずれもコミュニケーションの問題である。
 東京工業大学の佐藤(2011)による、短期留学生を対象とした調査でも、『日本人の英語力不足のため十分なコミュニケーションができない』は最大の問題となっており、観光地であるとないとに関わらず、日本人の英語力のなさは外国人にとって大きな障壁になっている。
 実際、米ETSによれば、日本語を母語とする受験者のTOEFL平均点は世界の国別上位100位以内にも入っていない。  
 但し、民間機関Education First (EF)の都市・地域別調査では、日本の大都市は国際的に見てそれほど悲観すべきスコアとなっていない。問題は中国・四国、東北などの地方である。

【考察】
 RWCは多都市分散型開催スポーツイベントという点で、オリンピック等とは異なり、サッカーのワールドカップに似ている。ゆえに、2002年のサッカーワールドカップを地方都市がどのように成功に導いたのかを考察することはRWC2019のために大いに参考になる。
 事実上、2002年のサッカーワールドカップでは大分県が最小都市であった。2019年では岩手県である。両県は人口規模もほぼ同じだが、大きく異なるのは留学生の数である。
 2002年の大分県では、開学したばかりの立命館アジア太平洋大学で学んでいた千人を超える留学生が、大会のボランティアとして大きな戦力となった。対して、現在の岩手大学には留学生は200人未満である。

【まとめと提言】
 では、開催地岩手県としてどのような方策が現実的に可能だろうか。最初に思いつくのは選択と集中というアプローチである。少ないながらも存在する、留学生という英語人材に研修を行うなど集中投資をすることだ。間違っても、日本人に対する英語研修ではない。
残りは、無料公衆無線LAN環境を整えるなど、IT技術を使い情報の需給ギャップを埋めることだろう。

自主開催ラグビー大会の効果と運営考察

―菅平高原不惑クラブ ラグビーフットボール交流試合を参考事例として―

鈴木 道男  (どんぐりラグビークラブ)

キーワード : スポーツマネジメント 企画 イベント 経済効果 社会貢献

【目的】 
2015年ラグビーワールドカップは、日本ラグビーに幅広い世代から注目を集め、その精神を再認識させた。このようなラグビーイベント、大会には、ラグビー協会が主催する同一条件のもとに勝者を決定する競技スポーツとしてのコンテスト大会、そして主催者が自主的に開催し勝利を目的としないラグビーのプロセスを楽しむ親睦主体の大会がある。今回は自主的な大会開催成功事例を取り上げ、その運営効果を分析する。そして大会開催可能性、ノウハウ、活性化、普及効果、将来性を考察する。

【方法】) 
40歳以上のシニア層のラグビー選手を集めて開催している「菅平高原不惑クラブラグビーフットボール試合」(毎年7月開催)主催者の協力を得て、1999年第1回から2015年第17回大会までの経過と効果を調査した。

【結果・考察】 
1999年5月21日菅平高原スポーツランド(サニアパーク)開設運用に伴い、記念イベントとして観光協会、長野県協会などが企画した。「全国不惑クラブラグビーフットボール交流試合」を開催し、毎年参加する固定層を確保し、安定した運営でノウハウも蓄積されている。延べ参加クラブ数367クラブ、参加者累計は11,520名に達している。

開催趣旨と経過⇒地域の活性化、ラグビー愛好家とさらなる交流を深める事をコンセプトとし、継続性のあるイベントとして2日間にわたり開催された。一般広報活動はせず、参加者は各県協会や関係者からの候補リストを作成し、直接募集した。

菅平高原スポーツランド(サニアパーク)
ルール⇒安全なゲームコントロールのため、代表者会議で年齢、スキルに対応したローカルルールを制定し、参加者とレフリーに説明、各カテゴリーに柔軟に適用している。
使用グラウンド⇒サニアパークの5面で実施、グラウンドスタッフ⇒ 宿舎施設から各1名、レフリー⇒ 長野県協会、他県協会のレフリー、チーム帯同レフリーなどが対応している。
地域への直接経済効果⇒ 宿泊者数約500名、懇親会にも約500名以上参加、菅平リゾートセンター、地元ケータリング会社、高原内のスポーツショップ、お土産店に経済効果がある。
間接的経済効果⇒チーム参加者の交通費、(公共交通機関、燃料・高速代・バス代)など。
運営の課題など⇒対戦アレンジ、初日は菅平高原に入る時間、2日目は帰りの時間がチーム毎に異なり、チームの希望試合数など配慮すると組み合わせが難しい。安全の要として、熟練したレフリー確保も難しい。
将来の構想と対応⇒将来的には赤(60歳代)・黄(70歳代)・紫(80歳代)のプレーヤー増加が予想されるので、大会日程を追加していく。ローカルルール適用で、子供たち、女性も気軽に参加できる大会に広げ楽しい大会運営をする。参加クラブを韓国、台湾、アジア近隣諸国も拡大、アジア版ゴールデンオールディーズ国際大会など企画開催する。

【まとめ】
企画次第で「ラグビー大会」が開催できる。幅広いカテゴリー、コンセプトでいろいろな大会が開催され、ラグビーファンを増やし、経済効果と合わせて社会に大きく貢献できる。

スポーツマンはジェントルマン ~「関西のスポーツの父」A.Cシムに学ぶ~

○星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(神戸居留地研究会)  西村克己(嵯峨野高校)

キーワード:関西初のラグビー、神戸居留地、KR&AC、ラムネ、ボランティア

【目的】
 発表の目的は、明治期、神戸で活躍したA.Cシムに焦点を当て、彼のスポーツ活動や社会的活動を通してスポーツマンとしての、そして市民としての、あるべき姿を追究することである。

【調査方法】
 A.Cシムに関する先行文献はなく、主に“The Hiogo News.”やJapan Chronicle “Jubilee Number.”、その他シムが創設したスポーツクラブ史“KA&AC.100Years.”などを利用した。

【結果と考察】
1)時代背景:19世紀の英国は、産業革命を境に新しくブルジョワジーが出現、競争をエネルギーに大変革を遂げた。この潮流の主役は若者で、彼らに指針と勇気を与えたのが、S.スマイルズの『自助論』である。その中で「努力と勤勉のみを武器として立身出世が可能で、それこそが価値あること、即ちジェントルマンの証である」と記した。また、この時期アスレティシズム=スポーツによる教育=が主流となり、理想の人物像・ジェントルマンの育成にスポーツが用いられた。
シムは1840年生れ。ロンドン病院に22歳で採用され、3級から2級へと薬剤師資格を向上、さらには薬局経営者資格も取得。また、彼は病院スタッフや医学生たちと共にテムズ川でボートを漕いだ。やがて、海外雄飛先を中国に求め香港・海軍病院や上海の薬品商社に勤務。この間、陸上競技大会でも活躍した。そして開港3年目(㍾3)の神戸へビジネスチャンスを求めて来日した。
2)神戸居留地:幕府は1858年「安政の五カ国条約」を結び、開港地に居留地を設けた。それは欧米人専用の居住・業務地区で、いわば「日本の中の外国」。この神戸居留地の自治組織、即ち居留地会議でシムは永年、副議長を務めた。
3)スポーツと文化の拠点KR&AC:1870年初夏、来神したシムは人々に寄付等を呼びかけ、わずか数ヶ月でKR&ACを創設。それは香港・上海でのスポーツマン、即ちジェントルマンとしての信用が、神戸に聞こえていたからである。 さらに芝生グラウンド(現、東遊園地)の設置にも関与した。
1876年関西初のラグビー試合ではFWで出場し英軍艦チームと対戦した。このグラウンドではサッカー、ホッケー、陸上、野球等も行われた。またKR&ACは、日本人にも胸を貸し、やがてここは「関西のスポーツのメッカ」となる。また、KR&ACの体育館では、室内スポーツは勿論、劇場も兼ね戦前は「素人演劇のメッカ」でもあった。
4)ブランド品〔ラムネ18番〕:欧米では薬剤師が清涼飲料水を扱った。六甲山からのミネラルウォーターは、ラムネに最適・美味でシムの〔ラムネ18番〕は飛ぶように売れた。直接買付けに来る小売店にも販売ルート(製造⇒卸問屋⇒小売店⇒消費者)を絶対外さず、スポーツと同様、商業ルールや商道徳を遵守した。
5)ボランティア活動:居留地では自衛・消防隊が必要で、シムは自ら応募し隊長を務め、計100人の消防隊員を指揮した。毎晩、火見櫓にも登り、確認の後ベッドへ入った。
上下6mもの大断層を生じた濃尾大地震(1891年M8.4)では、KR&ACで義捐芝居を公演し5,000$も集め現地へ向かった。2011年3・11と同様の大津波が1896年三陸海岸を襲った。シムはこの大津波にも、香港・上海・神戸の総代として釜石へ船で駆けつけた。義援金約2万円を手渡し、数週間も滞在し救援活動に当った。

【まとめ】
スポーツマン即ちジェントルマン
 1900年11月28日、腸チフスで死去。英字紙はシェークスピアを引用し“ This was a Man.”と讃えた。内外人による彼の顕彰碑が、今も神戸東遊園地に建つ。シムはスポーツプレーヤーとしての才能を自覚し、それを契機に「スポーツマン、ジェントルマン」に成ろうと努めた人物だった。

「ノーサイドの精神」についての一考察

○西村克美(嵯峨野高校)、星野繁一(龍谷大学)、髙木應光(神戸居留地研究会)

【目的】
我われの愛するラグビーは、他のスポーツとの差別化・ブランド化を図ることが可能な要素~歴史・伝統・精神~を数多く持っている。その一つが「ノーサイドの精神」である。試合後にアフターマッチ・ファンクション(以下,ファンクション)と呼ばれる交歓会を行い、レフリーともども互いの健闘を称え合い、後日の再開を約束する。言い換えれば、「ノーサイドの精神」を最も顕著に表すものがファンクションである。
 現在、日本ラグビーフットボール協会(以下,日本協会)は、「ノーサイドの精神」を日本へ、世界へ という標語を掲げている。また我われも、「ノーサイドの精神」=ファンクションと理解している。しかしながら、意外にもファンクションが、ごく一部でしか実施されていないようである。一方、標語を示しているにも拘らず、日本協会がその普及・具体化させる方策を全く講じていない実情もある。
本稿では、ファンクションの実態を把握する。加えて、より多くの部・クラブがそれを実施するための基礎資料を提供したいと考えている。

【調査方法】
調査表(別紙:発表時配布)を作成・配布し、スクール指導者14名、高校生24名、高校指導者65名、大学指導者41名、クラブ指導者11名、レフリー94名、計249名から回答を得た。

【結果】
(集計結果は別紙:発表時配布)
「1.ファンクションを実施・参加していますか」という問いには、全体の48.6%が「A.実施している」と答えている。カテゴリー別では、指導者等が41.2%、レフリーが66.0%である。「①どのような試合の後に実施しているか」の問いには、「A.親善試合・定期戦」での実施が、全てのカテゴリーで多い。「B.練習試合」での実施は、スクール、大学で行われている。高校、クラブでの実施は、今回の調査では確認できなかった。「C.公式戦」での実施数は、大学やクラブで多く、秋以降の公式戦での実施がうかがえる。また、レフリーのファンクションへの参加数は多く、様々なレベルの試合に参加していることがうかがえる。
「2.ファンクションは必要という意見について」は、全体で84.3%が「①その通り、必要である」との回答があり、ラグビー関係者がファンクションの必要性を十分認識していることが把握できた。中でも指導者等で集計したところ89.3%、ラグビー経験の少ない高校生でも87.5%が「①必要」と回答している。

【考察】
「1.ファンクションの実施・参加」については、「A.実施・参加」が、半数に満たない結果となった。この結果は、憂慮すべき状況である。即ち「ラグビーらしさ」の一大特徴であるファンクションの実施・参加が半数に満たない。これは「ラグビーのブランド力」低下が進んでいることを表す数字と言えるだろう。実施されているのは、「A.親善試合・定期戦」が多く、特に大学、レフリーで高い数字を得た。また、高校生においても定期戦、ワールドユースなど海外チームとの試合後にファンクションを経験していることが分かった。「B.練習試合」での実施は、一部のスクールや大学に止まった。少数ではあるが、これは大変うれしいことである。「C.公式戦」での実施は、大学、クラブに多い。一方、高校公式戦で実施されていないのは寂しい限りである。
おわりに:ファンクションの意義や重要性は高く認識されている。だが、少数ながら「必要ない」という回答もある。ラグビー関係者ならファンクションの重要性をよく理解して欲しいものである。そのためには、各カテゴリーで「ノーサイドの精神」にちなんだ取り組みを工夫し、実施すべきであると考える。なお、来年度の学会で、今回寄せられた数多くの意見を集約し「ノーサイドの精神」をより具体化する方法について、発表・提言したいと考えている。

&laquo; &raquo;