「ノーサイドの精神」についての一考察 Ⅱ

〇西村克美(嵯峨野高校)、星野繁一(龍谷大学)、髙木應光(神戸居留地研究会)

キーワード:ノーサイドの精神、アフターマッチファンクション

【前回の報告】

前回の日本ラグビー学会で、「ノーサイドの精神についての一考察」を発表した。ラグビーの特徴的な考え方であるノーサイドの精神、それを具現化したアフターマッチファンクション(以下ファンクション)に関して調査を行い、249名から回答を得た。
ファンクションの実施については、残念ながら実施・参加は半数に満たない結果となった。実施については「親善試合・定期戦」が多く、練習試合では、スクール、大学が実施している。公式戦での実施は大学、クラブに多い。一方、高校で実施されていない。
今回は記述された内容をKJ法で分類し、考察した。

【ファンクションを充実させる方策】

各カテゴリーで特徴的な回答が得られた。年齢や経験年数などで異なる様々なアイデアが回答された。それらをKJ法で分類すると、①物理的側面(施設グラウンドの設置状況等)②内容に関するもの(取組み・実施可能な内容、運営、工夫して取り組む・日本式、食事について)③指導者のファンクションに関する認知度を上げる(研修の実施)④ファンクションを実施するための機会を作る(他府県と交流、練習試合等でも実施する、公式戦は逆に難しい、もっと身近に、相手があれば行う)以上4つに分類された。
①物理的側面:クラブハウス等の施設が併設されていないことが多い日本のグラウンドでは、屋内での交流が難しい。「花道を作る」や「ハイタッチをする」、記念撮影などが、具体的な方策として挙げられた。②内容:食事の内容、スクールでは大人はアルコール禁止などの意見があった。③指導者の認知度:もっと指導者の研修が必要という意見が多かった。(高校指導者)④ファンクションの機会:ファンクションをオフィシャルな行事と捉えている指導者が多く、公式戦やレベルの高い試合にファンクションが行われている、という感覚があるのではないかと考える。1日に数試合行われる高校等の公式戦でファンクションを実施するのは困難なことであり、逆に、練習試合等の方が実施しやすいのではないだろうか。

【ノーサイド精神の促進策】

この質問に対しては、各カテゴリーで共通する内容の回答が得られた。①知識・理解(ノーサイド精神を指導者が正しく理解し、部員に指導、啓蒙していく)②試合形式を工夫する、機会を増やす(実施形態を工夫して)③体験(ファンクションへの参加)④内容について(普及、各カテゴリーでコラボし、広がりを持たせる)、以上の4つに分類された。
①知識・理解:ラガーメンがノーサイド精神を理解し、正しく伝えていくことが重要と考えている。また、トーナメント戦ではノーサイド精神が体感しにくいので、定期戦やリーグ戦を増やすという意見があった。②試合形式の工夫,機会の増加:公式戦の時間設定を余裕あるものにする、どんな試合でも実施する等の意見が寄せられた。③体験:観戦や実際のファンクションにも参加する機会を与える、という意見があった。④内容:クラブソングの斉唱やキャプテントーク、エール交換、マンオブ・ザ・マッチの選出などの意見が寄せられた。

【まとめ】

多くの指導者やプレーヤー、レフリーからたくさんの意見を得た。共通しているのは、「ノーサイドの精神、アフターマッチファンクションは、ラグビーフットボールにとって重要なものであり、ラグビーに携わる者すべてが理解し、後世に引き継いでいくものである」という思いに集約されると考える。一方、イギリスで実施されてきたファンクションの形態は、そのまま日本で実施するには困難な面がある。施設面、試合のあり方などが、大きく異なっているからである。試合が終われば、敵味方なくラグビーを愛する仲間として友情を確かめ合う、この考えを中心に置いて、方法はそれぞれのクラブの創意工夫によって開発されるのがよいのではないだろうか。また、日本協会が「ノーサイドの精神を世界へ」というのであれば、日本式のノーサイドの精神、それにちなんだ行事、日本式のファンクションをもっと工夫して実施、創案し、公開・啓発すべきではないだろうか。競技力の向上も必要であるが、ラグビーの尊い精神を普及させることも大切なことである。

ラグビー選手の無酸素性間欠テストにおける追い込みとフィットネステスト能力の関係

高津浩彰(豊田工業高等専門学校) 岡本昌也(愛知工業大学)

【研究の目的】

現代のラグビーではフィットネス能力はプレーを行う上で必要不可欠な能力であり、15人がセットプレーを除く一般プレーで同等に動けることが求められる。一般的に、持久的能力はその生理的限界を迎える以前に心理的限界を迎えることが多い。持久的能力は、心理的限界を超え追い込んだ方が生理的限界に近づき最大限のパフォーマンスに近づくと考えられる。本研究では、ラグビー選手を対象に、限界までの追い込みの度合いと持久的能力の関係を調査する。

【研究方法】

調査対象は、A大学ラグビー選手38名うちデータに用いたのは30名(平均20.2歳 標準偏差1.27)であった。被験者は、心拍計(SUNTO)を装着しyo-yoテスト(無酸素性間欠テスト)を実施した。yo-yoテスト直前1分(yo-yoテスト実施直前の心拍数に用いた)、yo-yoテスト実施中、yo-yoテスト終了後1分のそれぞれの心拍数を時系列で計測した。図1に心拍数の変化の例を示す。1分の立位安静時の後にyo-yoテストを実施し、終了後再び立位安静状態を1分間保った。テストの開始に伴い心拍数は徐々に増加し最高心拍数に達した頃に被験者はテストを終了した。正しくテストを行わなかった被験者のデータは分析対象としなかった。


図1 yo-yoテスト実施時の被験者の心拍数の変化の例

yo-yoテストの往復回数と以下に示す調査項目との関係について検討した。調査項目は、学年、年齢、身長、体重、BMI値、体脂肪率、yo-yoテスト実施直前の心拍数(立位)、yo-yoテスト実施中の平均心拍数、yo-yoテスト終了時の最高心拍数(以下最高心拍数)、追い込み度(最高心拍数を予測最大心拍数で除した値)である。年齢から達成可能な最大心拍数(予測最大心拍数=220-年齢)を算出しパフォーマンス時の最高心拍数を除して、そのパーセンテージを追い込み度(%)とした。追い込み度が高いほど限界まで追い込んだことを示すと考えた。
また、心理的競技能力についても調査した。調査には、徳永らの心理的競技能力診断検査(DIPCA3)を用いた。心理的競技能力総合得点、各因子(競技意欲、精神の安定・集中、自信、作戦能力、協調性)得点、各尺度(忍耐力、闘争心、自己実現意欲、勝利意欲、自己コントロール、リラックス能力、集中力、自信、決断力、予測力、判断力、協調性)得点についてyo-yoテストの往復回数との相関についても調べた。

【結果と考察】

yo-yoテストと相関が0.5以上(中程度の相関)あった調査項目について表1に示す。体重、BMI値、体脂肪率、最高心拍数、平均心拍数、追い込み度(最高心拍数/最大心拍数)について中程度の相関が確認された。
学年、年齢、身長、yo-yoテスト実施直前の心拍数(立位)、心理的競技能力総合得点、各因子(競技意欲、精神の安定・集中、自信、作戦能力、協調性)得点、各尺度(忍耐力、闘争心、自己実現意欲、勝利意欲、自己コントロール、リラックス能力、集中力、自信、決断力、予測力、判断力、協調性)得点については0.5以上の相関がなかった。つまり、これらの項目はyo-yoテストの結果と関係がない可能性が示された。
体重、BMI値、体脂肪の身体特性とテストの結果に負の相関が見られた。この結果は、体重が重いほど、BMI値が高いほど、体脂肪率が高いほどテストの結果が良くなかったことを示している。身体特性がテスト結果に影響している可能性が示された。最高心拍数と正の相関が見られた。この結果は、テスト終了時の最高心拍数が高いほど結果が良かったことを示している。また、追い込み度とyo-yoテストの結果において最も高い相関が見られた。この結果は、追い込んでいた被験者がテストの結果が良かったことを示している。

表1 yo-yoテストと中程度の相関があった調査項目

【まとめ】

本研究は、持久的能力と追い込み度の関係を調査するものであった。その結果から、期待される生理的限界近くの状態に追い込むことができる選手が、試合に必要な持久的能力が高い可能性が示された。

日本ラグビー学会第10回大会のご案内

日本ラグビー学会第10回大会を下記のとおり開催いたします。

謹啓
会員の皆様には、益々ご健勝のこととお喜びいたします。
さて、日本ラグビー学会第10回大会の案内をご連絡いたします。
本学会の特徴を生かした、幅広い視野からのアプローチによる有意義な大会にしたいと考えておりますので、多数の方々のご参加を頂きますようお願い致します。
謹白

■期日:平成29年3月25日(土)10:00~17:00(開始終了時刻は予定)

■会場:関西大学 千里山キャンパス 第2学舎 1号館5階
〒564-8680
大阪府吹田市山手町3-3-35
阪急千里線「関大前」駅下車 徒歩約10分

■大会概要
受付:10:30 ~ 13:00
参加費:会員 1,000円  一般・学生 無料

■大会テーマ
「日本ラグビーの今後を考える」
歴史・社会学、発育発達、運動科学、安全・健康の各分野から提言する

○定期総会

○懇親会:新関西大学会館〈4階〉レストラン「チルコロ」17:00 ~

【お問合わせ】
お問合せはこちら

ラグビーフォーラムNo.9

ラグビーフォーラムNo.9(2016年3月発行)

JAPAN RESEARCH JOURNAL OF RUGBY FORUM No.9 (March 2016)


【原著論文】

第8 回ラグビーワールドカップ2015・イングランド大会における外傷
-視聴者からみた-

外山 幸正・泉 将康

大学生ラグビーフットボール選手における各種シャトルラン・トレーニングが間欠的持久力に及ぼす影響

河野 儀久

ACL 再建術のSTG/BTB 法の競技復帰後における経過及びパフォーマンスの差
淡路 靖弘・大西 健

ラグビーワールドカップを非英語圏で開催するということ
―開催都市の受け入れ環境を考える―

大西 好宣

個を生かす集団づくりの再考
-トマス・アーノルドの実践に着目して-

和田 剛志

【研究資料】

スポーツマンはジェントルマン
~「関西のスポーツの父」A.C シムに学ぶ~

髙木 應光・星野 繁一・西村 克己

「ラグビーの精神・歴史・伝統の理解」についての一考察

西村 克美・星野 繁一・髙木 應光

(氏名:敬称略)

日本ラグビー学会誌 「ラグビーフォーラム」No9
平成28年3月26日 印刷発行 非売品
発行者   日本ラグビー学会 会長     溝畑寛治
発行所   〒564-8680
      大阪府吹田市山手町3-3-35
      関西大学 千里山キャンパス 中央体育館
      日本ラグビー学会事務局
      http://www.jsr.gr.jp/
印刷所   〒550-0002
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