ラグビーフットボールにおいてマウスガードが果たす役割
-義務化と規格化-
吉田亨(医療法人社団皓歯会、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座)
前田憲昭、的野慶(医療法人社団皓歯会)
○はじめに
マウスガードの装着が義務化された第85回全国高校ラグビー大会(平成17年12月)では、装着の現状を確認するために参加登録選手全員を対象に、アンケート調査が実施され、大会本部ならびに参加者の協力で98.7%の回答率を得ることができた。その結果、登録選手は全員マウスガードを装着していた。そのうち20.2%は義務化の施行で装着していたことより、義務化がなくとも79.8%が既にマウスガードを装着していたことも確認された。同様の平成10年度の調査時の結果の44.4%と比較しても普及が進んでいるといえる結果であった。
○義務化と規格化
ラグビーは身体接触の多いスポーツの1つであり、当然のことながら、プレー中の外傷の発生、特に頭顔面に多く発生している。1例として第85回全国高校ラグビーフットボール大会でも全受傷件数の約4割が頭頸部に発生している。第85回大会は、本大会からマウスガードの装着が義務化され、平成18年4月から全ての高校生での義務化となった。それには、近年ラグビーによる重症事故の報告が増加傾向にあり、平成17年度の夏合宿では高校ラグビー部員に重症事故が発生するなど、安全対策の一層の推進、事故防止対策が早急に求められた背景がある。
ニュージーランドでは1998年に国内ルールで実施し、国際試合とプロ以外を対象に義務化を規定している。米国におけるカレッジフットボールの障害対策における取り組みでは頭部外傷の急増に対して、ヘッドキャップの着用を義務化している。その結果、数年を経て一時的には頭部外傷が減少したが、やがて再度増加傾向を認めることになる。その原因を追究した結果、ヘッドキャップに求まれる機能を満たさないヘッドキャップが存在し、それを着用していた選手では外傷が発生していることを突き止め、ヘッドキャップに機能、形態についてStandardization(規格化)が行なわれた。その結果、頭部外傷は着実に減少を始めることになった。
マウスガードの材質、形態について現在のところ日本スポーツ歯科医学会においてもその明確な基準が定められておらず、わずかに安井が規格化に提言を行っているにすぎないが、歯科医院で作製されたカスタムメイドタイプでしか適切な材料、適合、外形、咬合を得られることができない。
○まとめ
現在、プレーヤー自身が装着しているマウスガードが、その機能において期待に応えられるかについては、評価する方法をもっていない。マウスガードを装着していると表現しても、正しく口腔に適合し、正しく咬合調整され、正しく機能を発揮できる状態にあるか、また、たとえ作製初期に十分な機能を備えていても、正しく管理されてその機能が維持されているかについては歯科医院でしか確認できない。プレーヤーが口の外傷予防にマウスガードを使用し、定期的にかかりつけの歯科医院にいってマウスガードのチェックを受ける。また同時に口腔衛生の指導を受けるという流れを作り、関係者各位においては、口腔衛生管理が重要であることを直接的、間接的に説明し、理解を得られるよう更なる啓蒙活動が必要となる。
ひと昔、歯が抜けたり、折れたりするのが当たり前の環境があったが、その後の生活のために当然ながら歯は必要であり、その一助としてマウスガードの普及は必要なのである。