ラグビー部員に対する頚椎画像メディカルチェックによる重傷事故予防

ラグビー部員に対する頚椎画像メディカルチェックによる重傷事故予防

中村夫左央、生野弘道、松岡好美、松浦正典、小西定彦、中村博亮
・橘陵ラガークラブ(大阪市大医学部ラグビー部OB会)
・弘道会阿倍野クリニック

キーワード:頚椎損傷、MRI検査、安全対策

【目的】
 頚椎頚髄損傷は、ラグビーにおいて頭部急性硬膜下血腫とともに予防するべき重傷事故である。日本協会では2007年より重傷事故対策本部を設け、RUGBY READYを基本として、コーチ・選手・レフリーの危険なプレーに対する意識を高めることにより、重傷事故防止に力をいれている。一方で選手に対する頚椎・頚髄のメディカルチェックを選手ごとに行い、事故を予見して未然に防ぐということも重傷事故予防対策として大切であろう。当クラブでこれまでに行ってきた頚椎の画像スクリーニングを用いたメディカルチェックを紹介したい。

【方法】
 大阪市立大学医学部ラグビー部では、2003年より部員に対して、OB医師の協力により、単純X線検査とMRI検査による頚椎スクリーニングを行ってきた。特に新入部員は必須とした。画像的なスクリーニングにより、頚部脊柱管狭窄や先天異常などがあれば、軽微な衝撃によってでも頚椎頚髄損傷をきたす可能性があると予見されるため、激しいコンタクトプレイは避けて予防するよう選手に進言・警告することとした。頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症などが考えられる時も、連携した専門医を受診してもらった。

【結果】
 これまで2003年から2008年まで6年間でのべ95名の学生選手のチェックをおこなった。2008年からは新入生と卒業生に限定した。頚部脊柱管狭窄症や先天異常に該当する部員はいなかった。頚部痛や上肢痛などの症状を訴えて頚椎椎間板ヘルニアなどの疾患が疑われた選手は新たにX線とMRI検査を行い、以前のデータと比較することで診断の参考になった。選手期間終了後の学生1名が頚椎椎間板ヘルニアで手術したが、その際にも過去のデータが役立った。

【考察】
 選手のメディカルチェックは、体力やスキル上達を確認する以外に、事故を予防するためにも行われるべきものである。メディカルチェックのなかに、X線/MRI検査を取り入れて、頚椎・頚髄の先天的な易損性がわかれば、重傷事故を未然に防げる可能性が増すはずである。また将来に頚椎椎間板ヘルニアなどの変性疾患が疑われた際にも比較できる。このような観点から、当クラブでは今後もこのスクリーニング検査を継続していきたいと考えているが、実施に際しての問題点として

  1. MRI施設のある病院の確保が必要で、かつ高価な検査であること、一般の高校大学選手に対しては、父兄、OB会、有志、後援団体などの金銭的バックアップが必要であること
  2. 未成年者の場合には父兄の許可も必要であると考えられる場合があること
  3. 実際に危険性のある選手が見つかった際に、コンタクトプレイをやめるような指導や警告をしても、拘束力をもつかどうかは難しいこと

などがあげられる。
しかしながらラグビーの重傷事故防止対策として、このようなMRI画像を含めたメディカルチェックが他のコリジョンスポーツに先駆けて広まることを期待し推奨する。